2016年6月25日土曜日

とと姉ちゃん(72)青柳商店最後の日~次に生きる人の事を考えて…

布団から抜け机に向かいなにやら眺めている滝子(大地真央) 
部屋に入ってきた君子(木村多江)「お母様!どうされたんですか?」 
滝子「何だか昔の帳簿が気になってねえ」 
君子「お母様、お加減いかがですか?」 
「今日は調子がいい」と微笑む滝子

帰宅した常子が青柳商店の看板を見上げる 

タイトル、主題歌イン 

滝子の部屋に入る清(大野拓朗)と隈井(片岡鶴太郎)
清「お招きにあずかりまして」
滝子「ああ、座っておくれ」
部屋には3人分の膳に酒も用意されているようだ
挨拶して席についた隈井「どうしやす?早速一杯やりやすか?」
滝子「その前に…話を聞いておくれ
この青柳商店は、ここで看板を下ろそうと思う」
清「えっ?」
隈井「女将さん…」
滝子「店を畳んで軍に貸し出す」
清「えっ、ど…どうしてです?200年続いた看板を守るといつも…」
滝子「だからこそさ…このまま青柳を続けても
納得のいかない仕事をするのは…私には耐えられない
そんな事をするくらいなら潰した方がいいんだよ」
隈井「しかし…」
滝子「私は…あと1年ももたないだろう…
フフッ…最後くらい格好つけさせておくれよ
それに隈井だって、もう解放してあげないとね」
隈井「解放だなんてそんな…」
滝子(涙声)「感謝してるんだ…隈井には」
手拭でを涙ぬぐう隈井「ここを引き払って…どうなさるおつもりですか?」
滝子「木曽の得意先からいい療養地があるって聞いてね…
向こうに引っ込もうと思ってるよ」
うつむいて泣き声を上げる隈井
滝子「だからお前も気兼ねなくどこにでもお行き」
隈井「女将さん…」
滝子「清はまだ若いんだ…
これからは店や私に気兼ねせず好きに…」
清「私も木曽に行きます
青柳がなくなるのに深川に残っても致し方ありません
木曽で仕事を見つけて、ずっとお母さんのそばにいます
情けない話ですがね…
私はお母さんに褒められる事だけを考えて生きてきたんだ
今更生き方変えられませんよ」
隈井「だったらせめてあっしに木曽までお送りさせて下さい
あっしは…この青柳の…番頭です
最後まで…最後まで…務めさせて頂きます」
滝子「最後に…一芝居つきあってくれないか?」
隈井「芝居?」
うなずく滝子

居間、小橋一家と青柳商店の3人
滝子「集まってもらって悪かったね
実はこの店を閉める事になってねえ」
君子を見る常子
君子「まさか陸軍の借り上げの話を…」
滝子「ああ、受けようと思ってる
お国が大変な時だ
小さな木材問屋の行く末など誰にも保証できない
だったら軍に貸していくらかのお金をもらった方が賢明だと思ってね」
常子「おばあ様が決めた事であれば私たちは何も」
滝子「目黒にいい借家があってね…隈井が手配してくれたんだ」
隈井「そこなら常子さんと鞠子さんの職場からも近いですし
よろしいと思いまして」
君子「お気遣いありがとうございます」
隈井「いえ」
君子「でも…お母様たちは…?」
滝子「あ…私は木曽の療養地でのんびり過ごそうと思ってるよ
清も来てくれるっていうしねぇ」
清「お母さんの事は任せて下さい」
君子がうなずく
美子(杉咲花)「嫌です…離れ離れなんて嫌です
私も一緒に木曽に行きます」
常子「よっちゃん」
美子「とと姉ちゃんもまり姉もかかもみんなで木曽に行けばいいじゃない!」
常子、君子、隈井「…」
滝子「勘違いしないでおくれ
私はこの青柳をやめる訳じゃない
ほんの一時、軍に貸すだけさ
戦争が終わって落ち着いたらまたここに戻ってきて
またこの青柳をやる
そうしたらまた一緒に暮らせるんだ」
美子「本当ですか?絶対にまた戻ってきてくれますか?」
滝子「ああぁ、祭りに行くって約束しただろぉ?」
滝子の真意と余命を悟っているような常子の表情
「はい」とうなずく美子
滝子「フフフフ…はぁ…」

<ひとつき後、青柳商店は最後の日を迎えました>

がらんとした帳場のかまちに腰を下ろしている滝子
君子「お母様…そろそろ…」
「あいよ」と立ち上がる滝子に君子が手を貸す
「いいんですか?少し見ていかなくても」と言う君子に滝子
「生まれた時から毎日見てきたんだ、もう見飽きたよ」
と、君子に振り向き「結局…守りきってやれなかったねぇ
偉そうに君子を守るって言っておきながらこんな事になっちまって…」
「いいえ…お母様にはずうっと守って頂いてました…
私はこの家に生まれて幸せだと思っています」と泣く君子を
滝子が抱きとめる

表で見送る一同
美子「おばあちゃま、これを見て下さい…浴衣です
でもまだ仕上げてません、今度お会いする時までに仕上げます
だから必ず帰ってきて下さい」
滝子「ありがとう…」
と、常子を見て「常子」
常子「はい」
滝子「木材ってのは、今植えたものじゃない
40年50年前に植えたものが育って商品になる
だから植えた時は自分の利益にならないのさ
それでも40年後に生きる人の事を思って植えるんだ
次に生きる人の事を考えて暮らしておくれ」
常子「はい」
鞠子と美子も「はい」と、うなずく
「さようなら」と、明るくおどけたような清
「ごめんくださいまし」と、隈井が頭を下げる
そして常子たちを見て少し微笑んだ滝子が車(人力)に乗り込む

<これが滝子の姿を見た最後になりました>

見送る常子
車が先の角を曲がる

<3か月後、深川の木材問屋は全て廃業しました>

東京 目黒

小橋家の表札

荷物が運び込まれた部屋を歩く常子
「ほうほうほう、これが新しい住まいですかい」
君子「浜松の家に少し似てるわぁ」
鞠子(相楽樹)「また4人に戻ったのね」
常子「改めましてどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ」と、頭を下げ合う4人

<小橋一家が4度目の引っ越しを終えた頃
海軍はミッドウェー海戦に敗北
日本は苦戦を強いられ始め更なる苦難の時代へ突入していくのです>

欄間に竹蔵の家訓を掛ける常子「よし…」

机に3つの目標を立てかけ、それを見つめる常子

(つづく)

冒頭の常子の帰宅シーン
小鳥のさえずりが聞こえているから早朝だと思うのだが
締め切りに追われる出版社の仕事は不規則って描写なんだろうか?
それともこのシーンは夕刻よりも早朝の方がいいという
演出的な判断だろうか?

店を閉める決断をした滝子に清「看板を守るといつも…」
これに滝子が「だからこそさ…」と言ったのはやはり
滝子の中にある商売の理念を守るためには
そうするしかないという事なのだろう
逆説的だが、店を閉める事が看板を守るという事か…

跡取りのための養子なのに店を閉めても
病気の滝子に最後までついていき木曽で仕事を探すって…
清かっこよすぎるだろ

滝子の「一芝居」は美子がああ言い出すのが判っていたからなんだろうね

滝子が君子を抱きとめるシーンの右手の動きは
宝塚の男役みたいでかっこよかった
さすがですw

2016年6月24日金曜日

とと姉ちゃん(71)青柳商店に危機が…滝子を心配する常子と君子

昭和十六年十二月八日 

青柳家のラジオに音楽が鳴っている 

廊下で「ふぁ~ふぁふぁ」と大きなあくびをする清(大野拓朗) 
常子(高畑充希)「お疲れですね」 
清「このところ会社の方が忙しくてねぇ~」 
常子「ああ…お体気を付けて下さいね」 

美子(杉咲花)「おばあちゃま、今日は朝食どちらで召し上がりますか?」 
布団に起き上がっている滝子(大地真央)
「じゃあ、みんなと一緒に食べようかね」 

居間、青柳家が揃っている朝食の席 
一同がラジオの方を見ている 
(ラジオ)「臨時ニュースを申し上げます 臨時ニュースを申し上げます 
大本営陸海軍部 12月8日午前6時発表 
帝国陸海軍部は本8日未明 西太平洋において
アメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり…」 
驚いて口を開ける常子「アメリカやイギリスとも戦争が始まるの?」 
君子(木村多江)「終わるどころかどんどん大きくなっていくわ」 
滝子「私たちはどうなっちまうんだろうね」 

<12月8日日本軍の真珠湾攻撃により
ついに太平洋戦争が始まったのです> 

不安気な表情の青柳家の面々 

タイトル、主題歌イン 

<昭和17年4月東京川崎名古屋など日本本土に初の空襲があり
戦争は激化の一途をたどっていきました> 

昭和十七年春

<政府からの締めつけや検閲はより厳しくなり
甲東出版では国の顔色をうかがって
出版せざるをえない状況が続いていました>

赤ペンを持って原稿をチェックしていた常子が席を立ち
五反田(及川光博)のところへ持っていき「確認お願いします」
原稿に目を落とした五反田がすぐに机に投げ宙を見る
常子「私の赤字どこかおかしかったですか?」
五反田「いや、そうじゃないよ
こんな戦意高揚の退屈な読み物ばかりじゃ
読者もつまらんだろうと思ってさ」
谷(山口智充)「めったな事言うんじゃない」
五反田「いや、でも読んでみて下さいよ
愚痴も言いたくなりますよ」
谷「そうは言っても出版禁止になったら飯は食えん」
相田「しかし…この質の悪い紙はどうにかなりませんかねえ」
谷「紙を回してもらうだけでもありがたい
どの業界も物資不足は深刻なんだ…」

「長い間お世話になりました!」と、青柳の半纏を隈井に返す職人
隈井(片岡鶴太郎)「すまねえな…達者でな」
どうやら最後に残っていた職人も店を去ったようだ

滝子の部屋
布団に起き上がった滝子の傍らに君子
そして清と隈井が正座している
清「ご気分はすぐれませんか?」
滝子「私の事はいいから用件を言いな」
清「…私は情けない男です
お母さんからこの青柳商店の事を任せられたのに
結局、私一人では決める事ができませんでした
200年の伝統を誇る青柳商店の看板を背負うのに
私の器は堪えきれなかったんです…
これから私たちがどうするかお母さんが決めて下さいませんか?」
滝子「一体…何をだい?」
清「2か月後、深川の木材商は…個人営業を禁じられる事になりました」
隈井「個人営業ができねえって事は
個人じゃなきゃ営業はできるって事ですかい?」
清「陸軍の下請けでお国のための営業なら
続けてもいいと検討されているらしい
でもそれを拒むなら…店を畳むしかない」
滝子「青柳を潰すか…続けるか…私に決めてほしいっていう事かい?」
清がうなずく
隈井「悩む事なんかありませんよ!
何でもいいから続けていきましょうよ!
何があってもこの青柳、潰す訳にはいかねえんだ!」
考えながらもうなずく滝子「ああ…そうしよう」
隈井「ええ」
清「はい」

常子「青柳商店が陸軍の下請けになるんですか?」
君子「ええ、おばあ様がご自分でお決めになった事なの」

滝子の部屋を訪ね、眠っている祖母を見ている常子

常子「おばあ様は本当にこの店を続ける気がおありなんでしょうか?」
君子「あなたの気持ちは分かるけど今はそっとしといてあげて」
常子「でも陸軍の下請けって何もかも陸軍の言うとおりにするだけで
おばあ様や清さんは何もできなくなるのではありませんか?
そんなふうに続けてもおばあ様はきっと傷つかれてしまいます」
君子「200年守り続けたこの店をやめるという事は
とってもつらい決断なの
お体の悪いおばあ様を苦しめる事はよくない事だと思うわ」

滝子と約束した浴衣を仕立てている美子

滝子の部屋へ往診に来た医者「問題ないでしょう」
君子「そうですか、よかった…
このところ職が細くなっていたので心配していたんです」
滝子「ほら言ったとおりじゃないか、心配性なんだよ君子は」

医者を君子と隈井が玄関まで送る
医者「さっきはご本人の前なのでああ言いましたがね…
あんまり思わしくないですね」
隈井「どれだけ…悪いんですか?」
医者「もう少し様子を見てみますが…」
動揺したような君子

雷鳴が響く中、寺で手を合わせる君子
振り返ると傘を差した滝子が歩いてくる
君子「お母様!…大丈夫なんですか?」
滝子「フフフ…私の事を祈ってたんだとしたら…やめとくれよ
こんなにピンピンしてるからねえ祈るのがもったいないよ」
と、来た道を戻り始める
君子「お母様はお祈りされないんですか?」
滝子「祈りに来たんじゃないんだ…ただ懐かしくてねえ…
最近やたらと昔の事を思い出しちまって
こういうなじみの場所に来たくなるんだ
ここには君子と何度も来たねえ」
君子「はい…覚えてます?おみくじ」
滝子「おみくじ?」
君子「ええ、私が大凶引いたらお母様が
安心おし、私が守ってやる…って」
滝子「ああ…そんな事も言ったねえ
フフフ…格好つけもいいとこだねえ
もうろくした今となっちゃ、そんな事もかなわなくなっちまった
フフフフ…嫌だねえ年を取るってのは」

2人が店に戻ると帳場に隈井が座って待っている
滝子「どうした?怖い顔して」
隈井「先ほど組合を通じて陸軍からの通達がありました」
君子「通達?」
隈井「裏に工場があり広さも立地も好条件なので
この青柳を個人営業の停止に伴い事務所として借り入れたいと」
滝子「冗談じゃないよ…店は閉めないよ
陸軍の下請けとして店を続けていけるって話だったじゃないか」
隈井「どうやら陸軍のもとで営業が許されるって先日の話も
正式にまだ決まった話じゃないようです
深川の木材商は間もなく
お国が全て廃業にするといううわさです
あくまでもうわさですが…」
君子「そんな…」

<青柳をどうするのか、滝子は決断を迫られていました>

茫然と立ち尽くす滝子

(つづく)

今回は戦争が激化する中で
国による締めつけが厳しくなっていく様子が描かれた

常子が青柳商店を続けていく事に否定的なのは
前回、帳場に座って気持ちの整理をつけているような滝子を見ているし
陸軍の言うとおりに~何もできず~傷つかれるだけ…と言っているように
滝子の心を心配しているからだろう
思うように雑誌作りができない自分を重ねてもいるかもしれない

対して君子はお体の悪いおばあ様を苦しめる事はよくない…と
滝子の体を心配しているようだ
あるいは青柳商店の存在が滝子の心の張りで
それがなくなってしまえば病状も悪くなると思っているのかも

14話で「おばあ様ってどんな方なんですか?」と訊ねる常子に
隈井が「青柳家そのもの」だと答えている
青柳商店がなくなる時、やはり滝子もそうなるのだろう…



2016年6月23日木曜日

とと姉ちゃん(70)常子の企画は検閲に…青柳では滝子と清が対立…

常子(高畑充希)「警察?」 
五反田(及川光博)「どうして…」 
富樫「ユーモア特集の企画が検閲に引っ掛かったんです
このご時世、笑える読み物を載せるなんて不謹慎だと
それを不服に思った社長が強く盾ついたものだから
検閲官を怒らせてしまったみたいで」 
常子「すみません…
私が笑えるものを載せたいだなんて言いだしたから…」 
五反田「何を言う、みんなが決めた事じゃないか
君が責任を感じる事はない」 
面会に行こうとする常子を無駄だからと止める五反田
「それよりも社長がいない間
いかにここを守るかに専念すべきじゃないかな」 
常子「はい…」 
富樫「発売は延期か…」 
相田「いや最悪の場合、発禁処分になるかも」 
常子「発売禁止ですか?そんな…」 
五反田「その覚悟もしておくべきだろう」 
富樫「大丈夫ですかね?うち…」 
五反田「まあこの一冊だけでどうにかなるという事はないよ
ただその先が心配だな…悪評が広まれば
広告を載せてくれている会社が降りると言いだしかねない」 
相田「広告でもってるようなもんですもんね、雑誌は」 
五反田「よし、まずは雑誌の回収に動こう」
常子「え?」
五反田「発売の許可が下りるとしても
何らかの訂正を求められる可能性は高い
どんな指示にも対応できるよう回収しておいた方が賢明だ
早速手分けして取次店と書店に連絡してくれ」 
相田と富樫「はい」 
憂い顔の常子「はい」 

タイトル、主題歌イン 

青柳家、中庭を臨み座る滝子と君子
滝子(大地真央)「工場宿舎の仕事がうまく進んだら
また昔みたいににぎやかになるんだろうねえ」
君子(木村多江)「ええ」
滝子「…遅いねえ…隈井だけじゃなくて私も一緒に
打ち合わせに行けばよかったかねえ」
君子「大丈夫ですよ、清さんも言ってたじゃないですか
宿舎の件ではお母様の手を煩わせたくないって」
滝子「ああ…」
と、そこに隈井(片岡鶴太郎)が戻ってきて
滝子が打ち合わせの内容や宿舎の造りを訊ねるのだがどうも要領をえない
隈井は何かを隠しているようだ…

甲東出版では雑誌の回収作業が進んでいる

清(大野拓朗)が帰宅すると、大事な話があるからと滝子が待っている
滝子「工場宿舎の件はなかった事にするよ」
清「えっ…なぜですか?
明日、工場の設計担当者と打ち合わせなんです
今更そんな…」
滝子「そんな事は関係ない」
清「お母さん」
滝子「隈井から聞いたよ
その宿舎、四畳半に4人が暮らす勘定の造りだっていうじゃないか」
常子「四畳半に4人も?」
滝子「狭いだけじゃないよ
あんな予算じゃ木材だってろくに集められないよ
そこに暮らす人間の事なんてこれっぽっちも考えちゃいないじゃないか!」
清「そんな事言っても…
今集められる少ない木材でできるだけ大勢の人を収容するには
ああいう設計にしなければならないんです」
滝子「いいかい?
このご時世みんな必死でふだんどおりの暮らしをなんとか守ってるんだ
なのにそれじゃあ…
ふだんどおりどころか暮らしってもの自体が成り立たないじゃないか!」
君子「お母様、興奮なさらないで下さい…お体に障りますよ」
滝子「これは青柳の仕事じゃない
うちは昔からずっと誇りを持って
たくさんのお客様の生活を支えてきたんだよ
そうやって青柳の看板を守ってきたんだ
そんなひどい所に大事な木材はおろせないよ!」
うなだれて話を聞いていた清が下を向いたまま「いい加減にして下さい!」
息をのんだような滝子
目を上げて清「…お母さんが元気になって
昔のように仕事をしてくれるのはうれしいです
でも…昔のようなやり方じゃ食べていけないんですよ
この非常時です、今までとは違うんです
先日お母さんが進めてた家づくりの事だって
あんな採算度外視の商売をしていても
店の首を絞めるだけなんですよ!」
滝子「なんて事を言うんだい!」
下を向いたままの隈井「…女将さん…あっしも…清さんに賛成です
女将さんは青柳の看板を守るとおっしゃいますが
このご時世どんな仕事でも引き受けて
なんとか店を潰さねえように耐え抜くってえのも
この店の看板を守る事になるんじゃないでしょうか」
滝子「私は…認めないよ」
黙って席を立つ清

帳場のかまちに膝を抱えて一人座っている清
隈井と君子がやってきて座る
隈井「清さん…申し訳ありませんでした」と、床に手をつく
「宿舎の間取りの事は女将さんに言うなってあれほど言われたのに…
あっしはどうも秘密を隠しておくのが不得手なもんで…
本当に…すいやせんでした」
首を振る清「いや…これでよかったよ…
おかげでお母さんに秘密を作らないで済んだ…
結局お母さんは私を跡取りとして認めてくれる事は
一生ないのかな…」
目を伏せる君子

夜、帳場に座り机に手を置き周りを見やる滝子の姿

朝、新聞に目を落とす清
常子と君子は膳を拭いている
滝子がやってくる「おはよう」
(一同)「おはようございます」
君子「まだ寝てらして下さい」
滝子「いいんだ…清」
清「はい」
滝子「引き受けちまったもんは仕方ない
工場宿舎の件はお前に任せるよ」
頭を下げる清「…ありがとうございます…お母さん」
そして顔を上げて「必ず店は守りますから
お母さんは病気を治す事に専念して下さい」
笑顔で答える滝子「ああ」

甲東出版
今日もリヤカーに雑誌を積んで戻ってきた五反田「はぁ…ただいま」
常子「お帰りなさい…随分ありますね」
五反田「うん、書店に回っている分は回収は全部終わった」
と、「すまなかったな」と声がする
2人が振り向くと顔に殴られたような痕がある谷(山口智充)が立っている
雑誌の発売は許可されたのだが
問題のあるページを全て削除するのが条件だと説明する谷
常子「削除…」

山のように積まれた雑誌のひとつを手に取る谷「こういう事だ」
と、花山の挿絵のあるページに定規をあてて破り取る
五反田「社長…ユーモア企画は全て削除って事ですか?」
それには答えず黙って次の雑誌を取り作業を続ける谷
谷の不本意な胸の内を推し量るような常子
五反田たちも黙って作業に加わる
男たち4人が紙を破り取る音だけが響く中、常子も作業に加わる

<常子の思いは時代の大きな潮流にのみ込まれていったのです>

黙々とページを破る常子

(つづく)

五反田はさすがナンバー2で有能だ
先手を打って雑誌の回収を決めたんだけど
ただのエロ親父じゃなかったんだねw

滝子と清の対立シーンで心配しているような君子のカットが多かったけど
これは君子自身がかつて滝子と対立していた事から
清の「滝子に認められたい」という気持ちが誰よりも分かるという事なのだろう

滝子が帳場を見やっていたのは
自分の中での青柳商店は終わったという事かな
隈井は店を潰さないのも看板を守る事だと言っていたが(確かにその通り)
滝子の言う看板を守るはスピリッツの問題だもんね
存続するためだけに理想と離れた仕事をするのは
高潔な滝子には無理な事だろうし
そんな事をして残ったとしても滝子にとっては
それはもう青柳商店ではないからだ

ラストで谷が五反田の問いにページを破る音で答えて
その後、男たちが黙々とページを破る音だけが続くのは
常子の浄書室でのイジメシーンを思い出した
あの時もタイプの音が一斉に止まったりするのを
気持ちや空気を表現する演出に使っていたけど
紙をビリッと破る音は編集者たちの怒りとか無念さを表現しているんだろうね







2016年6月22日水曜日

とと姉ちゃん(69)常子VS花山~青柳商店に大きな仕事が舞い込む

花山(唐沢寿明)「3度も言わせるな~!」 
常子(高畑充希)「…いくら何でもそのおっしゃりようは
失礼ではありませんか?私はれっきとした…」 
花山「できてない、帰れ邪魔するな」 
常子「えっ?」 
花山「甲東出版の社員だろ?」 
常子「どうして?あっ…」 
花山「そろそろカットの締め切りだ、時期を考えれば分かる
カットはできてない、これを言うのは2回目だ
よって帰れ邪魔するな、これを言うのは5回目
6回目を言わせたら憲兵を呼ぶぞ!」

タイトル、主題歌イン 

常子「…分かりました…失礼します」と、頭を下げて帰りかけるが
花山「本当に帰るやつがあるか」
振り向く常子「帰れとおっしゃったのはあなたですよね
私はそれに従った…」
花山「そこが君の腕の見せどころだ
帰れと言われても相手を説得してこそ有能な編集者というもの」
常子「しかし…」
花山「編集という仕事を理解してないようだね
いかなる手段を使ってでも原稿や挿絵を描いてもらうように
しむけねばならん」
常子「では帰らなければ描いて頂けるんですか?」
花山「いや、描かないよ」
常子「どうしたらいいんですぅ?…」
花山「君に編集者としての才能を見たなら描く気はあったんだが
まだまだ未熟なようだ、描く気がしなくなってしまったよぉ」
と、笑いながら頭の後ろに手を組み椅子の背にもたれる
花山から目を逸らせる常子「面倒くさい方…」
身を起こす花山「何?」
常子「そんな事おっしゃって最初から描く気なんてなかったんじゃ…」
花山「失敬な事を言うな!このスケッチブックはそのためのものだ
こうして用意だって…」
常子「でしたら描いて下さればいいじゃないですか…」
花山「気分というものが大切なんだ描きたくなった時に描く
ひらめいた時に描く、だからいいものが生まれる」
常子「では描く気分になるまでここでお待ちしています」
花山「今日は気分を害したカットは描か、ない!」
常子「ふぅ…」と少し苦い笑いで横を向く
花山「さあ分かっただろう帰りたまえ、これは本当の意味でだ」
「失礼します」と再び頭を下げて帰りかけた常子が立ち止まる「では…」
と、花山の方に向き直り「私と賭けをしませんか?」
花山「賭け?」
常子「はい、もしこの勝負に私が勝ったなら
カットを描いて頂けませんか?」
花山「おぉいいだろう、それで…何を賭けるというんだ?」
笑みをたたえて花山に近づく常子
「1時間以内に花山さんがそのスケッチブックに
カットを描くか描かないかです」
花山「はあ~?」
常子「私は花山さんが描かない方に賭けたいと思います」
思案するような花山
常子「花山さんはどちらにお賭けになっても構いませんよ」
考えている花山
入口付近の男1「これっていずれにしても描かなきゃいけないって事か」
男2「ああ、このまま花山さんが描かなければ
彼女の勝ちで結局描くしかない、描いたら描いたで挿絵は出来上がる」
男1「こりゃあ一本取られましたね花山さん、ハハッ」
花山が男たちをチラッと見て憮然とした顔で椅子に座り込む
常子「先ほどおっしゃいましたよね
編集者はどんな手を使っても描いてもらうようにしむけなければならない」
常子を睨んでいた花山が突然、机の上を整理して水彩の筆を手に取る
赤い屋根…黄色の壁…と筆を操る
と、完成したのか「持っていけ」と常子に出来上がった絵を渡す
受け取った絵をしばらく眺めている常子
「すてきな絵ですね」
花山「小説は平凡な一軒家に住む心優しい男の話だ
そんな家に住んでいると思ってね」
常子「小説の世界がそのまま絵になったようです
かわいらしくて…でもおかしみもあって」
机を叩く花山「感想などいいからさっさと持ってけ~!」と入口を差す
笑っている常子「ありがとうございます!」と絵を大切に封筒に入れ
「失礼します!」と頭を下げて帰ろうとするが右の革靴の踵が取れてしまう
「あっ、えっ?あっ…」と、しゃがみ込む常子
花山も常子の様子を見ている
諦めた常子が靴も靴下も脱いで「大変失礼しました…失礼しました」
と、男たちに挨拶して裸足のまま部屋を後にする
少し吹き出すように微笑む花山

裸足のまま封筒を抱え道を駆ける常子

絵を手に持って眺める谷(山口智充)
「さすが小橋君、花山伊佐次からカットをもらってくるとは」
常子「どういう意味ですか?」
相田「みんなあの人のとこもらいに行くの嫌がるんだよ
特に五反田さん」
五反田(及川光博)「君は男のくせにおしゃべりだな」
常子「もしかしてご自分で行くのが嫌だから私に?」
五反田「いや…何かと怒られるから苦手なんだよ」
常子「ひどいじゃないですか、嫌な人のところに行かせるなんて」
五反田「申し訳ない」
谷「でも才能は間違いないぞ
内務省でもいろんな標語に関わってるしな」
常子「ああ…確かに今日も真剣に標語を選んでいらっしゃいました」
相田「町で見かける戦意高揚のポスターも
かなり花山さんが割り付けしてるんですよね」
五反田「ああ、言葉と絵の才能を見込まれて
病気で満州の部隊を除隊してから内務省に雇われたんだ」
常子「すごい方なんですね、確かに挿絵もすてきですし…
でも…ご本人は苦手です」
(笑い)
五反田「まあ…うん」

青柳商店で材木を見ている客
「はあ~女将さん本当に平気かい?
あんだけの予算しかないのにこんなにいい材木…」
滝子(大地真央)「家は人が暮らす大事な場所ですよ
手なんか抜けやしませんよ
それにこの青柳はもうけより信用を第一に看板を守ってきたんです
大事なお客様に恥ずかしい木を売る訳にはまいりませんよ」

夕食の席、「仕事している方が調子いい(体の)」と言う滝子に
美子(杉咲花)「よかった、おばあちゃまがお元気で…」
「もう平気さ」と続ける滝子に美子
「じゃあ来年のお祭りは一緒に行って頂けますか?」
滝子が「じゃあ来年はみんなで行こうじゃないか」と言い
美子は「その時までにおばあちゃまの浴衣を仕立てます」と約束する
と、清(大野拓朗)が「大変です!大変です!」と駆け込んでくる
驚いた顔の一同に笑いだす清「フフフ!うまくいった~!アハハハ!」
常子「清さん?」
清「あれ?し…知らないかい?今はやりの銭形平次にあるの
こんなふうに 大変だ大変だ! って駆け込んでくると
決まってみんな驚くのさ、だから私もやってみようと思ってアハハハ!」
滝子「ごちそうさん」
(一同)「ごちそうさまでした」
清「あれ?あれ?あっ…ちょっと待って下さい!
驚かせたい事は本当にあるんです…
統制会社にいるおかげで久しぶりに大きな仕事にありつけそうなんですよ!
国の肝いりで巣鴨に縫製工場が出来るらしいんですが
工員たちの宿舎を作るための木材をうちに頼めないかと」
滝子「何だって?」
隈井(片岡鶴太郎)「そりゃ相当な利益になるんじゃありませんか?」
清「もちろん!縫製工場はいくつか出来る予定なので
また仕事が舞い込むかもしれないよ」
隈井「そいつはありがてえや!」
鞠子(相楽樹)「清さんお見事!」
常子「うん!」
滝子もこの件を了承して「忙しくなりそうだねえ」と明るいムードになる
清「あ~そっか…気が重いなあ
いや、また昔みたいに毎晩ごひいき筋に飲みに連れ回されるかと思うと…
いや、断っても断っても誘われるからもう寝る間もなくなるからさぁ…」
幸せそうな笑顔の常子「久々に聞いた気がします、清さんの自慢話」
滝子「本当だねえ」
(一同の笑い声)
清「参っちゃうなあ~!」と、おどけて額に手をやる

机の上に積まれた雑誌「新世界 十月號 甲東出版」
常子「いよいよですね~この雑誌が書店に並ぶのも」
と、雑誌を手に取り花山の挿絵のページを見る
五反田「どうだい?気分は」
常子「えっ?」
五反田「君の提案が目玉企画になりいよいよ今日発売になる
平常な精神じゃいられないんじゃないかな?」
常子「もう…朝から鼓動がはやくて」と胸のあたりをさする
五反田「心配ない、必ず読者に楽しんでもらえるさ」
常子「五反田さんのおかげで少し気持ちが落ち着きました」
五反田「うんうんうん、まあそんなに不安だったらね
僕がその手を握って…」
「結構です」と笑顔で五反田の手をかわす常子
五反田「フフフ…即答しなくても」
常子「アハハハ!」
相田「だけど社長遅いですね」
常子「ああ…」
五反田「取次店でも回ってるのかな?まあそろそろ帰ってくるだろう」
と、「大変です!大変です!大変です!」と富樫が駆け込んでくる
五反田「どうした?」
富樫「ハア…ハア…大変なんです」
常子「あ~はやりの銭形平次ですね?
だまされませんよ、その 大変です には」
富樫「何言ってんだ?」
常子「へっ?」
富樫「五反田さん」
五反田「はい?」
富樫「社長が警察に捕まりました」
五反田「えっ?」
「警察?」と、眉をひそめる常子

(つづく)

常子も言ってたけど花山面倒くさいw
こんな人と一生仕事でつきあうのか常子は
というかこのドラマでも最後までいるんだろうか花山…
面倒くさいw
でもまあ最後に常子を見た目は優しそうだったかな

靴が壊れて裸足になる件には何の意味があったのだろう?
花山と常子の出会いのシーンでもあるわけだが
花山に常子の逞しさとか行動力決断力を印象付けたといった感じかな?

美子が滝子に浴衣を約束する件で常子と鞠子が私にもと言いだして
君子まで私にもと乗っかってたね
最近の君子は乗りがいい
てか君子は裁縫得意だし暇もあるはずだけどねw
まあ清の自慢話と同じで場を明るくするためのおちゃらけなのだろう

五反田が常子に軽~くセクハラするんだけど
明るくかわす常子がいい感じ
女性が見たらどう感じるのかはわからないが

2016年6月21日火曜日

とと姉ちゃん(68)笑いで重苦しさを吹き飛ばせ!

寝込んでいる滝子(大地真央)を心配そうに見ている君子(木村多江) 
「行ってまいります」と、常子(高畑充希)が家を出る 
表に人の通りはない 

<長期化する戦争に深川全体が重苦しい空気に包まれていました> 

ふと足を止めた常子が近所の家々を見る 
窓や戸に板が打ち付けられ生活の気配はない 
気持ちを殺したような顔で歩き始める常子 

タイトル、主題歌イン 

無言で夕食を食べている青柳家
「ごちそうさん」と滝子が箸を置く
君子「もうよろしいんですか?」
滝子「ああ、箸つけちまって悪いけど
お前たちよかったらこれも食べておくれ」
と、一品しかないおかずの鉢を押す
君子「お母様…」
箸を置いて改まった鞠子(相楽樹)
「私…大学を卒業したら工場で働く事にします」
常子「えっ、どういう事?小説は?」
鞠子「このご時世にそんな事言ってられないでしょ
あっ、でも小説を書く事を諦めた訳じゃないのよ
工場で働きながらでも文章は書けるし
…いろいろ考えて決めた事だから」
少し寂しそうに微笑む君子「そう…」
美子(杉咲花)は黙って鞠子を見て、そして目を伏せる
今度は清(大野拓朗)が箸を置いて滝子を見る
「お母さん、私は誘われている会社に入ろうと思います
やはり店の現状を考えるとそれが一番賢明だと…」
滝子「そうかい…お前が決めたのなら反対する理由はないよ」
常子「会社って何の事ですか?」
清「ああ…もうすぐ日本木材統制株式会社っていうのができるんだよ
…つまり戦争のために国が木材を管理しようと作った会社さ
そこで働けば毎月決まった給料が貰えて生活も安定するし…
店の方は隈井さんに任して
僕は外で金を稼いでくる事に専念しようと思ってね」
美子「…あ~あ早く勝たないかなあ」
常子「うん?」
美子「戦争よ、だって日本が勝ったら戦争も終わるでしょ
そしたらまり姉は工場に行かなくてもいいし
清さんだって会社に入らなくてよくなるもの
食べ物だって自由に手に入るようになるだろうし
…今日だって配給が品切れで子どもたち泣いてたのよ
このところどこ歩いたって息苦しい雰囲気で嫌になる」
隈井(片岡鶴太郎)「…あの…」
滝子「お前まで暗い話かい?」
隈井「いえ!むしろあっしは逆でしてね
皆さんに明るい話をご提供しようかと」

子どもたちが歓声を上げて駆けて来る
「青柳教育玩具」ののぼり旗が立っている青柳家の縁側に座る滝子と常子
隈井が自作したらしい木のおもちゃを子どもたちに配っている
美子はそれを手伝っているようだ

おもちゃを手にした常子「本当によく出来てますね」
滝子「手先が器用なのは知ってたけど
まさか切れっ端でこんなものを作っていたとはねえ」
常子「前から少しずつ作っていたそうです
この界隈の重苦しい雰囲気を吹き飛ばしたいって」
滝子「隈井の望んだとおりになったみたいだね」

「こんなに明るい気持ちになったのは久しぶりです」と礼を言う常子
隈井「…あっしは泣き虫ですけどね人の事は笑わすのが好きなんですよ」
おもちゃで遊ぶ子どもたちの笑顔を見ている常子が
何かを思いついたように「…そうか」

甲東出版
五反田(及川光博)「読者を笑わせる?」
常子「はい、読者の役に立つ雑誌とは何か…というのを考えた結果
今の重苦しくなりがちな銃後の暮らしを少しでも明るくする事が
一番役に立つのではないかと思いまして
こんなご時世だからこそ読者の皆さんに
少しでも笑ってもらえるような読み物を載せたいんです」
一同「…」
常子「駄目…でしたか」
谷(山口智充)「小橋君、それは…
君が来る前に私が提案した企画と同じだ」
常子「えっ?」
相田「社長もユーモアのある話を載せて
読者に笑ってもらおうって言ってたんだ
常子「そうなんですか?だったら…」
谷「ただ…3人から反対されてな」
富樫「このご時世、やはり笑いはまずいんじゃないかと」
谷「まあ小橋君の提案としてもう一度決を採ろう
次の企画、笑いのある読み物がいいと思う者挙手を」
手を上げる常子と谷
「…僕も賛成」と、五反田が立ち上がり手を上げる
谷「何だお前、いいのか?」
五反田「ええ、美しい女性の悲しむ顔は見たくないので」
相田「いや、そんな理由で企画を…」
五反田「僕だってね本当は笑える雑誌が読みたいんだよ…賛成!」
相田「そんな事言ったら…俺も」と、手を上げる
一同「えっ?」
富樫「えっ、じゃあ…俺も」

<こうして常子の企画は採用と相成りました>

昭和十六年十月

常子「相田さん!どうでした?」
相田「やっと田中先生から原稿をもらえたよ!」
常子「あ~よかったです」

谷「よし、田中嘉彦の作品があれば
今回のユーモア特集は成功したも同然だ」
五反田「平凡な家に暮らす男が巻き起こす大騒動
こういう面白い読み物を書かせたら
田中先生の右に出る者はいないですからね」
谷「それじゃあ早速、挿絵を誰に頼むか考えよう」

<常子たちは戦時という暗い時代の中でも
なんとか前向きに歩んでいました
大学を卒業した鞠子は工場で事務の仕事に就き…
清も木材統制株式会社で働き始めていました>

青柳の半纏を着た滝子が客の応対をしているのを見ている君子
隈井がやって来る
君子「母にお客様ですか?」
隈井「ええ、昔なじみのお客さんなもんでねえ
清さんに任せないでご自分でなさるっつって女将さん張り切っちゃって」

小橋一家の部屋
(君子と常子と鞠子が内職のような事をしている)
美子「おばあちゃまが?」
君子「ええ、あんな元気そうなおばあ様のお顔見るの久しぶり」
鞠子「でも大丈夫なのかなあ?お仕事なんかして」
常子「その方が張り合いがあっていいのかもしれないわよ」
美子「そうよ、きっとこれからどんどん具合がよくなるに決まってるわよ」

甲東出版
常子「内務省?そんな所まで?」
五反田「ああ、そこの宣伝の部署に出入りしている花山って男だ
田中先生の作品のカットをもらってきてくれ」
常子「カットって挿絵ですよね?どうしてそんな…」
五反田「ん~学生時代の先輩でね
これがなかなか面白い絵を描くんだよ
…ただちょっと気難しい男でねえ、気を付けてくれ」
常子「気を付けるってどうやって?」
五反田「うん、まあ…
その日によってお気に召さない箇所が変わるから僕にも分からん」

内務省
廊下を歩く常子がある部屋の扉の前に立ち「失礼します!」と、入る
入口付近に2名の男が座る
常子「あの…すみません、花山さんはいらっしゃいますか?」
男「花山さんならあちらに」
部屋の奥で机の上に目を落している花山(唐沢寿明)
男「あ~でも今は話しかけん方がいいぞ」
机の上の紙を手に持ち上げ声を出して読む花山
「使って育てる代用品」
机の上にはその他にも「富国徴兵国民皆兵」などの
戦時下のキャッチコピーのようなものが並んでいる
別の紙を取る花山「臨戦態勢確立」
そして首をひねり元に戻す

<これが後に常子と一緒に雑誌を作り
戦後の復興に挑んでいく事になる常子の人生最大のパートナー
花山伊佐次との出会いでした>

ゆっくりと慎重に花山に近づく常子
花山「進め一億火の玉だ…う~ん…」と、壁に貼り付ける
常子「あの…花山さん…」
几帳面なのか紙の位置を微調整しているような花山
「帰れ、邪魔するな」
常子「いや、あの私…」
花山「帰れ、邪魔するな」
常子「ですから…」
花山「帰れ、邪魔するな」と、くるりと常子に振り向き大声で
「3度も言わせるな~!」
呆気にとられたのか、ただ花山を見ている常子

(つづく)

鞠子があっさりと工場に就職したw
きっと常子が出張ってきてなんとかしてくれると思ってたのに…
それにしても常子が職に就いた時とはえらい差だ
「暗い話」扱いにされてたねw
まあ本当は物書きになりたいのを皆が知ってるからなんだろうが…
工員かと思ってたらさすがに事務職だった
あの当時で大卒とかすごいエリートのはずだもんね

前回、人を切った清は自分が転身したね
この手があったかw
まあ正解だろうし清は人付き合いが良さそうだから
サラリーマンにも向いてそうだ

美子の「きっとこれからどんどん良くなるに決まってる」
はドラマ的には不吉なセリフだね
滝子にはずっと元気で常子を見守っていてほしいけれど…

人生最大のパートナーだという花山登場だけど
高畑と唐沢だと実年齢で30くらい違うから恋愛とかはないんだろうね
ビジネスパートナーとか同志といった意味だと思う

2016年6月20日月曜日

とと姉ちゃん(67)常子、雑誌の企画に悩む

青柳家 
「本日…見事採用となりました!」と、就職の報告をする常子(高畑充希) 
歓声を上げて喜ぶ一同 
滝子(大地真央)「よかったねぇ~」 
常子「ご心配おかけしてすみません 
すぐに働き始めますからご安心を」 
鞠子(相楽樹)「大丈夫?すぐにクビになるとこじゃない?」 
美子(杉咲花)「まり姉クビの心配するの早すぎる」 
隈井(片岡鶴太郎)「大丈夫ですよ、こんなご時世に
あえて雇うぐらいなんだからそう簡単にクビにゃなりゃしませんよ」 
清(大野拓朗)「ともかく久々によい知らせを聞くと
それだけで元気になりますね」 
滝子「そうだねえ、私も寝込んでばかりいないで働かなくちゃね」 
「はい」と、笑顔でうなずく常子 

<滝子は再生不良性貧血という病を患い
寝て過ごす事が多くなっていました>

帳場を掃除している3姉妹
常子「鞠ちゃん、いずれ会社の人紹介してあげるね」
鞠子「えっ?」
常子「ほら、作家へのきっかけになるかもしれないじゃない?」
鞠子「ああ…ありがとう…でも、落ち着いてからでいいわ」
常子「ほんと?」
鞠子「まずはとと姉がお仕事覚えなきゃ」
常子「そうよね~」
美子「ねえ出版ってどんな仕事なの?」
「え~っとね… … …分かんない!アハハハ!」とバカ笑いの常子

タイトル、主題歌イン

昭和十六年

甲東出版
谷(山口智充)「これが丹下先生の原稿だ
丹下先生は筆が早いから締め切りに間に合わない事はめったにない
ただ、すごいクセ字なんだよ
例えばこれとか読めるか?」
ペンとメモを手にした常子「あ~読めません」
谷「これ ゆうぼう って読むんだ」

<作家から原稿を受け取ったら読みにくい字を赤で書き直し
文字数を確認します>

谷「一枚のページの中に見出し、本文、挿絵をどの配置にするか
それを決める作業の事を割り付けっていうんだ」
「はい」とメモをとる常子
谷「特に挿絵は重要だ
いい挿絵はその作品の世界観を表し読者を引き付ける事ができる」

<出来上がった雑誌の一部は印刷所から運び込まれ
定期購読者に向けて発送していきます>

封筒に雑誌を詰めている常子たち

<そしてすぐさま編集会議を開いて先の号の内容を決めていくのです>

会議をしている常子を含む5人
谷「他にないのか?このままだと出版できなくなるぞ」
他の社員の顔を窺っているような常子
と、立ち上がり机の上の湯のみを盆に集める
谷「何をしている?」
常子「あっ、皆さんにお茶のお代わりをと思いまして」
相田「ありがとう」
富樫「気が利くね」
笑顔の常子「いえ当然です」
谷「何が当然だ!今は会議中だぞ
雑誌の内容を考える時間だ、他の事は考えなくていい!」
固まっている常子
相田「お茶、要りません」
富樫「俺も」
常子「いや、でも…」
谷「小橋君も何かないのか?」
常子「何か…ですか?」
谷「会議中、控えを取ってばかりじゃないか
君の意見はないのか?」
常子「私の意見…ですか?」
谷「何を驚いてる?」
常子「いや、あの…女がしゃしゃり出て意見なんか出してもいいんですか?」
五反田(及川光博)「フフッ、当たり前じゃないか
ここじゃ男も女もない
君の考えを素直に言っていいんだよ」
谷「君が作りたいと思う企画が浮かんだら是非聞かせてくれ」
笑顔になってうなずく常子「はい!」

青柳家 夕食の席
「もう~びっくりしました!夢にも思ってませんでしたから
私が雑誌の企画を考えてもいいだなんて!
あ~女性でもそういう仕事任せてもらえたりするんですね」
と、一気に喋って食事にむせる常子
君子(木村多江)「もう、食べながらしゃべるからよ」
鞠子が「お茶お茶お茶…」と、湯飲みを持たせる
湯飲みを手に喉のあたりをたたく常子「こ…興奮してしまって」
鞠子「女性でも企画ができるなんてタイピストの頃とはまるで違うのね」
常子「うん」
美子「そんな事ってめったにないんでしょ」
常子「そうだと思う」
清「えっ、で…どんな企画考えたんだい?」
常子「それが…まるで浮かばなくて」
滝子「せっかく多くの人が目にするんだ
人の役に立つものがいいんじゃないか?」
常子「役に立つもの?」
滝子「私もこの40年ずっと同じ仕事を続けられたのも
そういう自負があったからさ
常子も役に立つ雑誌の方が作る励みになるだろ?」
「はい、そう思います」と笑顔でうなずく常子

会社で頬杖をついて思案中の常子
五反田が後ろからポンと肩を叩く
常子「あ…」
五反田「悩め若人よ」
谷「そう簡単にいい企画なんて浮かぶもんじゃないさ」
常子「はい…何かこう人の役に立つような事を
雑誌でできないかなあと思ってるんですけど」
谷「人の役に立つ?具体的には?」
常子「それが思いつかなくて…」
相田「じゃあ悩みを解消する特集ってできませんかね」
谷「う~ん…それはそれで難しそうだなあ
悩みなんて皆違うだろう」
考え中で宙を睨み下唇が突き出ている常子

<確かに悩みは人それぞれで…
鞠子は進路について悩んでいました>

どこかのベンチに座る鞠子と木戸(白州迅)
「そうか…それが君の出した結論か」
鞠子「…ええ…大学を出たら工場にお勤めに出ようと思ってます」
木戸「残念だな…鞠子君ならいい物書きになれると思っていたんだが」
鞠子「いえ、決して作家の道を諦めた訳ではありません
仕事が終わったらきちんと毎日書き続けるつもりです」
木戸「朝から晩まで働いて疲れて帰ってきてから
本当にいいものが書けるのかい?」
鞠子「それは…」と、目を伏せる
木戸「僕は文学の道を突き進むよ
またどこかで会えるといいね、じゃあ」と立ち去る
木戸の後ろ姿を目で追う鞠子

<こちらの悩みは…>

帳簿を見て「参ったなあ…」と天を仰ぐ清
隈井を呼んで「このひと月で売り上げが3割減だ」
隈井「3割も…」
清「もう少し切り詰めないとなあ…」
隈井「これ以上何を切り詰めればいいって言うんですか?」
清「はぁ…人を減らすか」
隈井「またですか?もう職人1人と小僧2人しか残っちゃいませんよ」
清「仕方ないんだ…小僧たちに故郷に帰るよう伝えてくれ…頼む」
隈井「分かりやした」

<青柳商店は経営難のため営業規模を大幅に縮小していました…
皆が鬱屈した思いを抱えた中
常子はこの時世において人の役に立つものは何かを
ずっと考え続けていました>

考え事をしながら歩く常子が人の声に驚く
「あなた!」
振り向く常子
見ると割烹着にタスキをかけた婦人が若い女性を叱っている
婦人「そんな派手な化粧をして!」
女性「すみません」
婦人「ぜいたくは敵です
ぜいたくをするような人間は日本国民の敵なんですよ!」
無表情でそれを見ていた常子が歩き始めると
「あなた!」と声がする
再び驚く常子
見ると別の婦人が常子に向かってくるではないか
やはり「大日本婦人會」のタスキをしている
常子「私ぜいたくなんてしてませんよ」
婦人「堂々と道を歩き過ぎです」
常子「えっ?」
婦人「若い女性が堂々と道の真ん中を歩くもんじゃありません
もっとつつましく端を歩くべきです」
常子「どこを歩こうが私の勝手です」
婦人「まあ!目上の者になんて口を!」
「失礼します」と頭を下げながらも不機嫌な顔でその場を去る常子

常子が旧森田屋の前を通りかかる
足を止めガラス戸の前に立ち面々を思い出す
と、郵便配達員がやって来て自分宛の手紙を受け取る常子
常子「村野…」
配達員「村野…綾さんですね」
常子「綾さん…」

大急ぎで部屋に戻り手紙を読む常子
(お寒さ厳しき折から常子様にはいかがお過ごしでいらっしゃいますか
結婚して名古屋に参りましてからは
常子様にお目にかかる機会も少なくなってしまって
本当に寂しく存じております
嫁ぎ先に入ってしまいますと女学校の時とは勝手が違い
自由が利きませんの トホホ
実は病院勤めだった主人がこの度軍医として召集され
満州へ赴く事になりました
覚悟はしておりましたが後方の病院勤務とはいえ
内地と違い危険がない訳ではありません
やはり不安が募ります
何事も先の事ははっきりとは分からず
今は主人の身をただただ案ずるばかりです
お手紙を差し上げようとあなた様の事を考えた途端に
女学校時代の日々が走馬灯のように思い出されて
懐かしさと楽しさと喜びで胸がいっぱいになりました
どうかどうかお元気でいらして下さいませ)

<戦争の影がすぐそばまで近づいている事を実感する常子でした>

手紙を手に、綾の身を案じて晴れない表情の常子

(つづく)

甲東出版での仕事はタイピスト時代よりやり甲斐のあるものになりそうだ
なにしろ出版は生涯の仕事になるみたいだから当たり前か

鞠子と木戸は「またどこかで会えるといいね」とあっさり別れたw
でも鞠子がこのまま工場に勤めるとも思えないから
まだなんともいえないかなあ…
鞠子の悩みは進学の時と同じく経済的なものだろうか
常子の給金はおそらく月40円から25円に下がっているはずだし
家計を助けたいという事なのかな?

青柳商店に残る職人はあと1人って…
そういえば木材も並んでなくてガランとしてたけどそこまでだったとは
リストラするならおそらく給金の一番高い隈井を切らなきゃ駄目だよねw

ラストの婦人の件と綾の手紙は
常子が思案中の企画作りのヒントになるのだろう