2016年7月30日土曜日

とと姉ちゃん(102)雑誌に広告が載った事を知った花山は…

常子(高畑充希)「あの人がですか?そんなそぶり全然…」 
谷(山口智充)「編集長ってもんは往々にして気難しくて誇り高いもんなんだよ」 
相田「そうなんですか?じゃあ今度の編集長も?」 
谷「ああ、俺と違って短気だから覚悟しとけよ!」 
(一同)「え~」 
富樫「五反田さんが羨ましいですよ」 
五反田(及川光博)「えっ?」 
富樫「これからは悠々自適な作家生活じゃないですか」 
五反田「ハハッ、そんないいもんじゃないよ 
独り立ちして仕事が来るかも分からないし 
まあ…すばらくはすいとんばかりすすって暮らす事になるだろうな」 
常子「五反田さんなら大丈夫ですよ」 
五反田「これはこれは…出版社の社長様にそう言われて光栄です」 
常子「からかわないで下さい」 
五反田「…さっきの話だけど花山さんだってわからず屋じゃない 
君自身の口で誠意をもって伝えれば分かってくれると思うよ」 
常子「はい…」 

タイトル、主題歌イン 

<そして迎えた第5号の発売日>

雑誌を積んだリヤカーを曳く水田(伊藤淳史)と3姉妹
水田「美子さん上機嫌ですね」
美子(杉咲花)「分かります?実は昨日ようやくこれは…っていうものを
見つけたんです、ほら」(と水田に鉛筆を見せる)
水田「鉛筆?」
美子「はい、以前花山さんと買いに行ったんですけど
その時は買えなくて…きっと喜んで下さるはずです」
水田「…だといいんですが」(と立ち止まり常子たちに振り向く)
「今日伝えるんですよね?広告載せた事」
常子がうなずく
美子「えっ」
水田「大丈夫ですかね…」
常子「私の口からきちんとお話しします」
美子「私どうなっても知らないからね」
鞠子(相楽樹)「ひどい言い方しないの」
常子「花山さんが出社してらしたらすぐに話すわ」

事務所の机に積まれた「あなたの暮し」第5号
と、編集長室から花山(唐沢寿明)が出てくる
常子「もういらしてたんですか?」
花山「もういらしたというよりまだいらしたんだ」
美子「徹夜ですか?」
花山「心躍る企画が浮かんだがそれに対する答えがまだ見つからなくてね」
常子「その前にお話があります」
花山「静かにしてくれ、頭がいっぱいなんだ」
花山のデスクの前に立つ常子「花山さん、折り入ってお話が」
花山「後にできないのか?」
常子「はい」
花山が顔を上げて常子を見る
常子が後ろ手に持っていた雑誌を「最新号なんですが…」と差し出す
(常子は花山の顔が見れなくて下を向いている)
「原稿に間違いでもあったか?」とそれを受け取り確認する花山
目を閉じて常子「裏表紙をご覧下さい」
そこには袴田料理学校の広告
花山「何だこれは!なぜ料理学校の広告が載っている!」
常子「やはりどうしても資金が足りなかったんです
広告はこの誌面だけです」
花山「言い訳など結構!」
常子「ですが…」
花山「なぜ今まで黙っていた?」
常子「それは申し訳ありません」
水田「すみません、あの…僕が」
常子「いや、こうでもしないと認めて頂けないと思ったんです」
花山「こうすれば私が認めると思ったのか?
認めるも何も出来上がってしまっていては反対もできないじゃないか!」
(一同)「…」
花山「…汚いやり口だな」
常子が下を向く
花山「なぜ理解してくれない!広告を載せてしまうと
読者のための記事に制約が生まれるかもしれないんだぞ!」
常子「ですから雑誌の内容には口を出さないように約束を取り付けました」
立ち上がった花山が静かに「甘いよ常子さん」
花山の顔を凝視する常子
花山「残念だがもう君と雑誌は作れない」(と編集長室に向かう)
鞠子「どういう意味ですか?」
花山「編集長は辞めさせてもらう!」(と部屋に入る)
美子「花山さん!」
茫然としている常子に美子「とと姉ちゃん」(と背中を押す)
部屋に入る常子「本気でお辞めになるつもりなんですか?」
荷物を整理しながら花山「私はいつでも本気だ」
常子「待って下さい」
花山「辞表は要らんだろう」
常子「花山さん」
花山「広告はそれほど大事な事だったんだ
進退を懸けるほどにね
君にそれが伝わっていなかったのは残念だ
同じ思いで雑誌を作っていると思っていたんだが」
常子「それは同じだと思います、毎日の暮らしを守るために…」
花山「口では何とでも言える!」
常子「私そんなにいけない事したでしょうか?
雑誌の内容自体は何も変わってないんですよ」
花山「その1ページが命取りになる!」
常子「ですけどお金がなければ雑誌を出す事すらできません
それじゃあみんなや花山さんのお給金だって払えません」
花山「じゃあ君は金のために魂を売るのか!」
常子「そういう訳では…」
花山「私はそんな雑誌ならば出すべきではないと考える
君は生きるために雑誌を出すべきだと考えた
相いれないのかもしれないな」
常子「お願いします、残って下さい
あなたの暮しは私たちが生みだした雑誌じゃないですか
見捨てないで下さい!」
花山「そうさせたのは君たちだ!」
一同「…」
花山「世話になったね…」(と歩き出す)
美子「花山さん…」
花山が事務所を出ていく
美子「本当に辞めちゃったの?」
水田「恐らく…」
常子の手を引っ張り背中をドアの方に押す美子
「ねえ今からでも遅くないよとと姉ちゃん謝って!」
鞠子「謝る必要ないわ!こうするしかなかったんだから」
美子「でも…」
水田「あの様子では聞く耳を持ってくれないでしょう
我々でなんとかするしか…」
言葉もなく、動く事もできない常子

闇市を歩く花山が先日のパン売りの店を見つめる

事務所では気落ちした様子で会議中の一同
お茶を出してくれた緑に常子「すみません、心配かけて」
緑「いえ」
美子「…ひどいよ…花山さんがいなくなったばかりなのに」
鞠子「だからそれは…」
常子「このまま何もしなくたって締め切りは迫ってくるの
よっちゃんも一緒に考えて」
美子「私は花山さん抜きで企画を決めるのは無理だと思うよ」
「…あっ!」と立ち上がり花山のデスクを探る水田
鞠子「何をするおつもり?」
水田「あっ、いや…花山さんのメモを見れば
花山さんがおっしゃっていた心躍る企画というのが分かると思いまして
それが分かれば次号の…」
常子「それはいけません…それじゃあ花山さんの企画を盗む事になります」
水田「…ですよね…すみません」
美子「だったら今すぐ広告やめて花山さんに許可とってきたら?」
鞠子「それができたら苦労しないでしょ」
美子が立ち上がりバックを持ちドアに向かう
緑「美子さん?」
美子「企画を考えるのはここじゃなくてもいいと思うので」(と出て行く)
鞠子「もう…あの子は…」
がっくりとうなだれる常子

三枝子(奥貫薫)「本当によろしいんですか?」
花山「ああ、すぐに次の出版社をあたってみる
余計な心配はいらないよ」
三枝子「収入の事ではなくあなたは本当によろしいんですか?
あれだけの決意をもって立ち上がったのに…」
花山「だからこそこうするしかなかったんだ」
三枝子「…」
茜がやってきて「お父さん、今日は早いんだね」
「うん、しばらく家にいられるかもしれないな」と茜を抱き上げる花山

帰宅した美子に君子(木村多江)「あら一人?早いわね」
美子「辞めちゃったんです」
君子「えっ?」
美子「花山さん」
君子「えっ?どうしてまた…」
美子「広告の事でとと姉ちゃんとぶつかって…
私、花山さんの気持ちが分かるから納得できなくて」
君子「なんとかならないの?」
美子「謝るよう言ったんですけど自分たちで何とかするらしいですから」
君子「あの子も頑固なところあるからねえ
何か話し合うきっかけでもあればいいんだけど」
美子「…きっかけ?……よし…」(と、どこかへ向かう)

部屋で特集の企画書を書いている美子

事務所で企画会議をする一同
水田「小麦粉を使った新しい料理?」
美子「はい、以前は餓死の危険もありましたが
この1年で食糧事情も好転してきた、それは小麦粉の配給のおかげで…
で、それはあの…アメリカからの…あれのおかげなのよ」
鞠子「あれって?」
美子「いやいや、あれよあの…アメリカが日本にくれた…」
(一同)「あ~」(とうなずく)
美子「まあとにかくそれでそのおかげで
家庭に小麦粉がたくさんあるようになった
でもどうやって使ったらいいか分からないから
うどんかすいとんにするしかない
でもそれじゃ飽きてくるじゃない?
だから小麦粉を使った新しい料理を提案したら喜ばれるんじゃないかしら」
美子の書いた企画書を手に常子「信じられない…」
美子「ん?」
常子「よっちゃん、これ本当に自分で考えたの?」
美子「…そうよ…当たり前じゃない」
常子「よっちゃんすごいわ!すごい、すごいじゃない!」
美子「そう?」
水田「僕もそう思います」
常子「ねえ」
緑「私も」
鞠子「悔しいけど…うん」
美子「じゃあ次号の企画は小麦粉料理で決まりね」

花山家玄関
三枝子と茜が花山を見送る
花山「そんな顔をするな、すぐに仕事先を見つけてくるから…行ってくる」
花山の背中を心配そうに見ている三枝子

出社する常子がビル外壁の「あなたの暮し出版」の看板を見上げる

<常子と花山は別々の道を歩き始める事になってしまったのです>

玄関の外で天を見上げため息をついた花山が歩き始める

(つづく)

五反田のアドバイス通りに常子は自分の口で伝えたけどダメだったねw
まあ花山の言う通り「汚いやり口」を使ったのだから仕方ない
さらに「私そんなにいけない事したでしょうか?」
と、一瞬だけど逆ギレもしていたね常子はw
全体的には花山に対する申し訳なさは十分に見せていたとは思うけど

鞠子の「謝る必要はないわ、こうするしかなかった…」は
美子との対比でのポシションでこのセリフなのだろうが
合理的で鞠子らしいと言えばそうとも思える

常子を花山に謝らせたい美子はそのきっかけを作るために
花山の企画を盗んだのだろうがうまくいくのだろうか?

美子が会議で適当に説明する件は面白かった
鞠子の「悔しいけど…うん」はどういう意味だろう?
3姉妹の中では自分が一番できるはずで
ましてや女学校の成績が一番悪かった美子に後れをとるなど
鞠子的にはプライドが許さないという事なのかな
常子の「信じられない…」も褒めているようで
よく考えれば失礼な物言いだよねw

ところで前回の三枝子の「でもこの前みたいな事もあるじゃないですか
やっと塩じゃけが食べられると思ったのに
ほとんど腐っていて食べられないなんて…」
は何だったのだろう?
今回、回収されると思っていたのだが…
もしかしたら、ただ食糧事情が悪いというだけの描写だったのだろうか?
88話の「こんなでも暮らしは暮らしですから」もそうだが
三枝子は時々謎なセリフを吐く
公式のインタビューで奥貫が語っているように
三枝子は「明るくのほほんとした人」だと自分も思うのだが
上のセリフ2つは愚痴だと解釈する事もできるような気もする…


2016年7月29日金曜日

とと姉ちゃん(101)会社存続のため花山を欺く常子たち

編集長室 
表紙のイラストを描く花山(唐沢寿明)の前に立つ常子(高畑充希) 
花山「何だね?」 
常子「はい…現状を鑑みると広告を載せる以外方法はないと思うんです 
賛同して頂けないでしょうか」 
花山「その話は終わったはずだ!」 
常子「質を落とさず続けるためには広告を載せるしかないんです」 
花山「認めん!
広告を載せると広告主の意向に沿わねばならなくなるかもしれない
あなたの暮しは本当に正しい事だけを伝えたいのに
できなくなるかもしれないんだぞ!
…考え直しなさい常子さん、我々の雑誌を守るために」 
困り顔の常子 

タイトル、主題歌イン 

常子がしょんぼりと編集長室から出てくる
鞠子(相楽樹)「やっぱり許す訳ないか…」 
水田(伊藤淳史)「でもこのままじゃ…」
事務所にいる鞠子、水田、緑(悠木千帆)に常子「広告は…載せます」
水田「いいんですか?」
緑「だって花山さんは…」
常子「花山さんには伝えずに載せます」
鞠子「黙って広告載せるの?」
常子「完成してしまったら受け入れるしかないでしょう」
水田「いや、それはそうですが…」
常子「あなたの暮しを続けていくにはもう、こうするしかないんです
雑誌を楽しみにして下さっている方のためにも
私たちが生きていくためにも」
うなずく鞠子「とと姉がそう決めたなら」
水田「早速探しましょう」
と、「ただいま戻りました」と美子が帰社する
その場の空気に美子「どうかした?」
常子「広告をね…載せる事にしたの」
美子「花山さん、いいって?」
鞠子「ううん、花山さんには内緒で」
美子「えっ?」
緑「大きな声は…」
美子「私は反対、そんな裏切るような事…」
鞠子「仕方ないじゃない、他に手がないんだから」
常子「こうでもしないと春までに潰れてしまうの」
水田「広告主は景気のいい会社がいいと思います、積極的だと思うので」
緑「景気のよいところ…」
鞠子「お料理学校は?最近、看板が目につくから儲かってるのかなって」
水田「確かに…食料の供給も安定してきたし
欧米の最新知識が入ってきた事で家庭料理に洋食を取り入れたいと
習いに行く人が増えていると聞いた事があります」
常子「お料理学校か…」
寂しそうな顔の美子

袴田料理学校
副校長袴田久「ここに当校の広告を?」
水田「はい、あなたの暮しの購読者層は
そちら様の生徒さんとなる方々と同じだと思います」
鞠子「女性全般に広く話題の雑誌だといわれておりまして…」
久「発行部数は?」
水田「創刊号は3万部、以降も6,000部以上は出ています」
久「3万はすごいな」
常子「はい、いかがでしょうか?」
久「よく我が校を選んでくれました、ねえ?お父様」
と、後ろで盆栽を手入れする校長袴田辰紀に振り向く
辰紀「うん、そうね」
常子「では…」
久「これからの花嫁は西洋料理も一通りできないと…
という風潮のおかげで料理学校は乱立してましてね
ちょうど宣伝に力を入れようと話し合っていたところなんです
ねえ?お父様」
辰紀「うん、そうね」
久「それじゃあ、お願いしましょうか」
常子「是非!」
(3人)「よろしくお願いします」
久「それでは早速広告料のお話を…」
常子「あっ、その前に…一つだけお約束頂きたい事が…」
鞠子と水田「…?」
久「…何でしょう?」

帰り道
鞠子「とと姉があんな条件出すから破談になるかと思ったわ」
水田「雑誌の内容には口を挟まないでほしい…なんてヒヤヒヤでした」
常子「でも大切な事でしょ?それにもっとお上品な言い方でしたわ」
(3人の笑い声)
鞠子「とにかく決まってよかった、これで花山さんに話しても安心よね」
常子「そうね、内容は私たちの好きにしていいって約束して下さったものね」
水田「いえ…やめておきましょう
広告と聞くだけであんなに毛嫌いするほどですから…
せっかくの契約が取り消しになってしまうかもしれません」
鞠子「ああ…そうかも」
常子「…」

美子の記事をチェックする花山「もっと伝わりやすい文章を書きなさい」
美子「はい」(原稿を返されて机に戻る)
と、3人が帰社する
花山「揃ってどこへ行ってた?」
常子「あ…あの…」
鞠子「書店です」
花山「書店?」
鞠子「日頃ごひいきにして下さっているところにご挨拶をしに」
(常子、鞠子を見てうなずく)
水田「ええ、はい」
花山「そうか」
花山から顔をそむけた常子の目が泳ぐ
花山「美子さん!」
美子「はい!」
花山「赤字部分を書き直しなさい!」
美子「すみません、でももう締め切りが…」
受話器を取りながら花山「関係ない、それは君が提案した企画だろ
自分が提案した企画には最後まで責任持ってやり遂げなさい!」
美子「はいっ」
花山「もしもし桑原印刷さん?ああ…あなたの暮しの花山ですが
表紙の件でね…青を強めに出してくれないか」
慌てる常子「ちょっと待って下さい、もうやり直しするお金はありません…」
花山(受話器に)「代金は気にせずすぐにやり直してくれ…ん~弱いんだよ」
絶望的…という感じに目を閉じる常子
花山「青だけでいい、強めにね…すぐにできるかな?」

<こうして花山に広告の事を伏せたまま
「あなたの暮し」第5号の準備は進められていきました>

夜、小橋家
君子(木村多江)「花山さんには事後報告って事?」
鞠子「それしか手がないんです」
君子「それじゃ黙っていなきゃいけないあなたたちも心苦しいわね」
常子「ええ…」
美子「どうだか…本当に心苦しかったらあんなに平然と嘘つけるかな」
(と常子をチラッと見る)
鞠子「よっちゃん」
美子「私は今でも賛成じゃないからね」
常子「どうして分かってくれないの?広告入れなきゃ雑誌自体が…」
美子「広告入れるなって話じゃないの、花山さんに話すべきって話!」
常子「さんざん話したけど分かってもらえなかったの!
何で分かってくれないの?」
君子「2人ともやめなさい!…お食事中ですよ」
やけくそ気味にうどんをすする美子
常子も眉をしかめながらうどんをすする

こちらも食事中の花山一家
三枝子(奥貫薫)「やっと最新号の完成なんですね」
花山「ああ、だがすぐに次とその次も同時に考えねばならん」
茜が「もういらない」と箸を置く
花山「どうしてだ?おなかがすくぞ」
三枝子「飽きちゃったみたいなの…うどんかすいとんばかりですものね
本当はお米を食べさせてあげたいけれど手に入らないから…」
花山「明日、闇市に行く用があるから何か食べ物手に入れてくるか」
三枝子「でもこの前みたいな事もあるじゃないですか
やっと塩じゃけが食べられると思ったのに
ほとんど腐っていて食べられないなんて…」

<食料事情はいまだに悪く、配給も米は僅かで小麦粉ばかりでした>

事務所の机に伏せてため息をつく鞠子
耳元で「鞠子さん」と声をかけられ振り向き
至近距離の水田の顔に驚き「なっ…!」
こちらも鞠子の反応に驚く水田「お~!」
そして「あっ、すみません」と頭を下げる
鞠子「戻ってらしたんですか?とと姉は?まだ印刷所?」
水田「あっ、いえ、あの…常子さんは帰りに寄る所があるそうで」
鞠子「そうですか…」
水田「あっ、もしかして常子さんと美子さんの事を?
あ…朝から2人の様子がおかしかったので」
鞠子「ええ…あの2人ゆうべやり合ってしまって
美子…花山さんに心酔してるから」

吸収合併される事になった甲東出版では一同が荷物を運び出している
常子「すみません、お忙しい時に相談に乗って頂いて」
谷(山口智充)「ううん」
五反田(及川光博)が横から「いやいや引っ越しも手伝ってもらえてるし
そんな面白い話を聞かせてくれるなら大歓迎だよ」
常子「面白くありませんよぉ!」
五反田「あの花山伊佐次を欺くなんて僕にはできないな」
谷「経営者として君は正しい
うちも生き延びるために吸収合併って道を選んだからね
でもな…編集長としては理想の雑誌を追求する花山さんの気持ちも分かる
そのためにもう一度直線裁ちのような発明を…と内心焦りはあるかもな」
常子「あの人がですか?」

闇市を歩く花山と美子
「何をお探しなんですか?」
花山「鉛筆だ」
美子「えっ、鉛筆なら会社にあります」
花山「それでは駄目だ、本当に気に入ったものでないと」
美子「はぁ…」
花山「いいか?文章にせよ絵にせよ書く道具にも念を入れるべきだ
そうやって選んだ道具でやった仕事には一層愛着が深くなり
一生忘れられないものになっていく」
美子「はいっ、勉強になります」
花山「うん」
と、「さあさあさあ、小麦粉持ってくればこっちで焼くよ~!」と売り子の声が響く
美子「何でしょう?いい匂いしますね」
花山「ああ、パンを焼いているんだ
小麦粉があっても家にパン焼き器や天火がなくては焼けない
だから代わりに焼いて商売にしているんだ」
美子「へえ~」
花山「戦争が終わってアメリカからララ物資(食料の国際的な支援)など
大量の小麦粉が日本に入ってきた
だから今では配給も米ではなく小麦粉だ」
美子「ああ…」
花山「ところが小麦粉を自宅で食べる事をしてこなかった我々日本人は
困ってしまった訳だ
どうやって料理していいのかを」
美子「そういえばうちもうどんかすいとんばかり…」
と、何かを思い付いた花山「そうか…小麦粉を使った新しい料理だ」
美子「新しい料理?」
花山が「次号の特集だよ!ハハハハハ!」と駆け出す
美子「えっ…えっ?…鉛筆…」(と背中を見送る)
微笑みながら路地を駆け抜ける花山

(つづく)

料理学校の校長袴田辰紀(並木史朗)は
「うん、そうね」しか言わなかったねw

花山に嘘をつくシーンの3姉妹は
それぞれの花山への思い入れみたいなのが出ていた
さらっと嘘をつく鞠子w
鞠子に同調したものの花山を正視できない常子
そもそも嘘をつくのに反対の美子

夜の食事シーンで美子はなぜか鞠子ではなく常子に噛みついたね
「あんなに平然と嘘を…」(美子のセリフ)ついたのは鞠子なんだけどw

まあこの嘘は常子が社長として苦渋の決断をしたという事なんだろうけど
仲間を、それも自分たちの指導者的な立場の人を欺いちゃいけないと思った
(どんな理由があっても)
この嘘を仕方がないと肯定できるかどうかは人それぞれだと思う

ところで常子たちは印刷所に何をしに行ったのだろう?
まさか花山の依頼をキャンセルしたのではないだろうな
支払いを含めた細かい打ち合わせだと思いたいが…

五反田に対して常子の「面白くありませんよぉ!」が可愛かった
五反田のキャラなのかセクハラされていたせいなのか
この2人はすごく距離が近い感じがする
家族のために父の代わりのとと姉ちゃんとして生きてきた常子だけれど
自身も父を早くに亡くした一人の娘だ
美子は花山に父性を見ているみたいだが
常子にとって父代わりにもっとも近いのは
もしかしたら五反田ではないだろうか?(ちょっとチャラいけどw)
常子は五反田に対する時に一番甘えてる感じに見えるからだ

2016年7月28日木曜日

とと姉ちゃん(100)宗吉と照代との再会~資金難の中、社長として決断を迫られる常子

<「あなたの暮し」は順調に売り上げを伸ばしましたが
第3号第4号では思うように販路を拡大できないまま
会社設立から1年半が過ぎていました> 

昭和二十三年秋(創刊から一年半) 

<戦後の混乱期の中、出版業界は群雄割拠の時代を迎え
経営基盤の小さい出版社は次々と淘汰されていきました> 

桑原印刷前
「申し訳ありませんでした」と支払いをする常子(高畑充希) 
桑原「次は期日までに頼むよ」 
「本当にすみませんでした」と頭を下げる苦しい表情の常子 

タイトル、主題歌イン 

谷(山口智充)「すまん…この甲東出版を閉める事にした
許してくれ」(と頭を下げる)
五反田(及川光博)が谷に礼で返す(相田、富樫、他一名もそれにならう)

<甲東出版は大手出版社(四谷出版)に吸収合併される事になったのです>

あなたの暮し社
机の上に大量に雑誌が積まれている
緑(悠木千帆)「3号が804部で4号が707部」
美子(杉咲花)「合わせて1,511部か…」
鞠子(相楽樹)「まだ書店から返品の連絡が来てるわ」
水田(伊藤淳史)も沈んだ表情だ
「ただいま」と常子が戻る
(一同)「お帰りなさい」
美子「遅かったね」
常子「うん、桑原印刷さんに寄ってきたの
支払い済ませてきました、お願いします」(と水田に領収書を渡す)
それをのぞき込む美子「4万円か…」
(一同)「…」
一同を見ながら常子(七五調で)「増えるのは~出費と在庫の山ばかり…」
一同が常子を見る
常子「和ませようとしただけじゃない
ため息で部屋が充満してたから」(と顔の前の空気を払うように手を振る)
水田「…あの…印刷代節約できませんかね?」
常子「えっ?」
水田「やはり一冊当たりの単価を下げるべきかと…」
常子「そうなると今のようにふんだんに写真やイラストが使えなくなって
雑誌の質が落ちてしまいます」
水田「ですがこのまま売り上げが落ち込めば
予算不足で雑誌を出す事も難しくなりますよ」
常子「それは私も感じていますが…」
鞠子「ねえ…やっぱり広告を載せた方が…」
常子「だからそれは花山さんに…」

(回想)常子「広告を載せてみてはどうかと思うんです」
花山のデスクの前に立つ常子、鞠子、美子、水田
美子「広告?」
常子「うん、他のどの雑誌も載せています
それでやりくりしていると言っても過言ではありません
数千部の売り上げがあれば載せたいという会社もあると思うんです」
鞠子「それならやりくりが楽になるわね」
美子「賛成」
水田「ええ」
花山「論外だな、分からないのか?広告を載せるという事は
雑誌の一部を売り渡す事になる、そんな無責任な事はしたくない」

常子「鞠ちゃんだって納得してくれてたじゃない」
鞠子「そうだけど…」
美子「まあ…何か策は考えなきゃね」
水田「僕も経理の立場から考えてみます」
常子が「あっ」と水田が持つ領収書を見る
水田の手に力が入って領収書は握りしめられくしゃくしゃになっている
水田「あっ!」
鞠子「何やってるんですか水田さん!」
水田「すみません」
今度はそれを伸ばそうとして破ってしまう水田「あっ!」
(一同)「あっ!」
鞠子「もう水田さん!」(と腕を叩く)
水田「すみません」
美子と顔を見合わせ笑う常子
と、「常子さん、次号の表紙が出来上がったぞ」と花山が部屋から出てくる
イラストを受け取り見つめる常子
花山「どう思う?」
その街並みを描いた絵に常子「あぁ…いいですね」(とうなずく)
花山が常子の手からイラストを取り「書き直す」
常子「えっ?」
花山「すばらしいものを見た時の君の顔はそれではない
待っていなさい」(と部屋に戻る)
常子「あ…」

帰路の3姉妹
美子「花山さんってとと姉ちゃんの事頼りにしてるわよね」
常子「そう?」
美子「うん、だって表紙のイラスト必ずとと姉ちゃんだけに見せて
反応うかがうじゃない?」
常子「ん~そういう役回りってだけよ」
鞠子「そうかなあ」
美子「ねえ」
常子「えっ?」
鞠子「あれだけペンを握らないって言ってた花山さんが腰を上げたんだもん
とと姉の事信頼しているのは間違いないでしょ」
常子「う~ん…だといいけど、フフフ」
と、家に着き「ただいま帰りました」と玄関を開ける
すると家の中から懐かしい笑い声が聞こえる
鞠子「宗吉さん!」
常子「(へっ)…!?」
美子「照代さん!」
宗吉(ピエール瀧)「お~お前ら!」
照代(平岩紙)「お久しぶりねえ!」
常子「お久しぶりです」
照代「あら~」
常子「お久しぶりです」
宗吉「お~美子も随分と大人になったなあ」
美子「宗吉さんもその…」
照代「老けたでしょ?」
宗吉「もっとマシな言い方があんだろうよ!渋みが増したとかよ!」
常子「フフフフ、心配してたんです音沙汰がなかったから」
照代「ああ…高崎の家が空襲で焼かれてしまって…」
常子「そうだったんですか…」
宗吉「そこから生活を立て直すのに大変だったもんでな」
照代「ここの住所は控えてたから
いつか知らせなくちゃとは思ってたんだけど…ごめんなさいね」
君子(木村多江)「いいえ、ご無事で何よりです」
鞠子「富江ちゃんは?お元気ですか?」
照代「ええ」
美子「長谷川さんも?」
宗吉「ハハハ、あいつはしぶといねえ
召集されて北支に行ったもんだから二度と会えねえと覚悟したんだがなぁ
生きて戻ってきやがった!」
常子「あ~よかったです」
美子「お孫さんももうだいぶ大きく…」
照代「そうねもう7つだもの」
常子「もう7つですか」
鞠子「名前は確か…」
照代「まつ吉」
(一同)「そうそうそうそう!」
鞠子「恐らくまつさんと宗吉さんの名前をとってかと」
宗吉「そのとおり」
照代「かわいいわよ、どっちにも似てなくて」
宗吉「おいおいおいおい、耳の形は俺に似てんだろ!」
鞠子「まつさんはお変わりないんですか?」
宗吉「う~ん…それがな…」
照代「戦争が終わってすぐ体調を崩してしまって…」
宗吉「あのまま深川に残ってたら空襲で焼け死んじまったろうからな…
まあ…長生きしてくれたほうだ
…ああ、青柳の女将さんは?」
君子「母も戦争中に木曽で…」
宗吉「…そうかい…」
照代「もう一度お会いしたかったわ」
美子「私もまつさんに会いたかった…」
君子「落ち着いたらみんなでお墓参りに伺いましょう」
3姉妹が「はい」とうなずく
宗吉「母ちゃんも喜ぶと思うからな…そうしてやってくれ…」(頭を下げる)
礼を返す小橋一家
君子「…お二人はまた東京にお住まいになるんですって」
3姉妹「えっ?」
照代「ようやく疎開した人が都市に戻っていいって事になったでしょ?」
宗吉「どううせなら生まれ育った東京でもうひと花咲かせたくてな」
照代「洋食屋を開きたいんだって」
鞠子「洋食?」
君子「お弁当屋さんじゃないんですか?」
宗吉「いやぁ、洋食はいいぞ~
高崎に行くまでな、さっぱり分からなかったんだけどなぁ
今じゃすっかり魅せられちまってなあ…
飲食店の個人営業停止ももうじき廃止になるしな」
美子「おいしいものに飢えてるからいいと思います」
宗吉「うん…あっ、今度食べに来てくれよ」
常子「是非是非」
君子「ええ」
宗吉「…にしても驚いたぞぉ、お前ら誰も嫁に行ってねえんだな」
君子「ええ…はい…」
宗吉「あ~?浮いた話はねえのか?」(と常子たちをそれぞれ指さす)
照代「あなた!」
宗吉「何だよ」
美子「まり姉ちゃんになら」
鞠子「は?」
照代「そうなの?」
鞠子「いえいえ」
美子「同僚の男性がまり姉ちゃんに思いを寄せてるんです」
照代「あら」
鞠子「だからって別に何もないです
おつきあいしてる訳じゃありませんし」
常子「ん~鞠ちゃん次第ですかね」
鞠子「もうとと姉まで!」
照代「そうか、3人一緒のお勤めなのよね」
常子「はい」
照代「見てるわよ、あなたの暮し」
常子「えっ?」
「ほらっ」と照代があなたの暮し第一号を取り出す
君子「毎号買って下さってるんですって」
常子「え~ありがとうございます」
照代「お礼を言うのはこっちよ
いつも楽しみにしてるんだから」
宗吉が照代から本をひったくり「俺も読んでるぞ」
3姉妹が笑う
鞠子「宗吉さんも?」
美子「婦人雑誌なのに?」
宗吉「関係ねえよ、こう見てるとな…何だか胸が熱くなってくんだよ
お前らがこんな立派な雑誌なんか作って…」
照代「自分の事のように誇らしいわ」
少し照れたような3姉妹と胸がいっぱいになったような君子
宗吉「…で、どうだ?経営も順調なんだろ?」
顔を見合わせる3姉妹
常子「ええ、はい」
鞠子と美子「…はい」
宗吉「ずっととと姉ちゃんなんだなぁ…」
常子「どうですかねえ、鞠子も美子も大人ですから」
宗吉「社長って意味でだよ」
常子「えっ?」
宗吉「社長って事は社員を抱えてるって事だろ
とと姉ちゃんが守る家族が大きくなったって事だろ…頑張れよ」
常子「…ええ」

事務所
常子が「今月分です」と水田に八月分と書かれた給料袋を手渡す
常子「少なくて申し訳ありません」
水田「とんでもない、ありがとうございます」
常子が緑に給料を渡している間、手の中の給料袋を見つめている水田
「常子さんたちのお給金は足りていますか?」
常子「私たちの事は気になさらないで下さい
家族4人食べていけるだけの分はありますから」
水田「僕なりにこの資金難を乗り越える策を考えたのですが…」
常子「何か思いつきましたか?」
水田「僕がここを辞めるべきかと…」
一同が水田を見る
水田「人件費削減が手っ取り早くお金を作る事になります」
常子「お断りします
水田さんが経理を担当して下さったからこそここまで来られたんです
でなければ今頃倒産していたかもしれません」
水田「それは光栄ですが…僕が辞める以外にはやはり広告しかありません
広告を載せれば11万円の増収が見込めます!」
鞠子「でも花山さんが…」
水田「はっきり言います
次号が爆発的に売れない限りその次を出すのが精いっぱい
このままでは…倒産します」
鞠子「そんな…」
水田「あなたの暮しが出版できなくなってしまってもいいんですか?」

<このあとの常子の選択が大きな波紋を広げる事になるのです>

行き詰まった表情の鞠子と美子
そして何かを決断しなければならない迷い顔の常子

(つづく)

順調に売り上げを伸ばしているのになんで経営が苦しくなるんだw
よくわからないが常子はずっとお金に苦労するみたいだ

甲東出版はあっさり吸収されたね
潰れた訳じゃないから谷たちは今後も
四谷出版の社員として登場するのかな?

前回から一年ちょっと話が飛んだけど鞠子と水田は相変わらずだ
常子と星野も毎週おしるこデートしてたけど
話が飛んだ2年の間はなんにも進展しなかったのと同じだね

玄関を開けて宗吉たちを見た時の3姉妹の表情が良かった
鞠子の弾けるような笑顔もいいし
美子の「信じられない…」といった驚きの表情もいい
常子は懐かしさと嬉しさと驚きがからみあったように徐々に笑顔になっていく

宗吉たちの老けメイクが絶妙
年をとると毛髪にコシがなくなりペチャッとする感じがうまく出てたと思う

宗吉が「驚いたぞ」と言ったから雑誌の事かと思ったら
「誰も嫁に行ってない」に笑った
常子と鞠子は28と27くらいだろうから当時なら立派な行き遅れなのだろう
まあ戦争で適齢期の男子が減ってしまったからそんな人も多かっただろうが

宗吉に社長としてとと姉ちゃんとして頑張れと励まされた常子だけど
自分を信頼してくれて理想も共有している花山と
会社のために自身が退職するとまで言ってくれる水田との間で
板挟みみたいになっちゃったね
広告を載せるべきなのか…
今週のタイトルは「花山と断絶する」だから
常子がどうするのかなんとなくわかるような気もするが
またすばらしいアイデアでも思いついてミラクルに解決するのだろうか?

2016年7月27日水曜日

とと姉ちゃん(99)常子と花山のアイデア対決!~常子の細やかな気遣いに感心した花山は…

事務所に運び込んだリンゴ箱を並べて配置している花山(唐沢寿明) 
常子(高畑充希)「花山さん…あんな箱どうするつもりかしら?」 
人差し指を唇に当て美子(杉咲花)「し~っ!きっとこれから驚くような事が」 
花山「よしっ、完成だ」 
(一同)「えっ?」 
鞠子(相楽樹)「これで完成ですか?」 
並べた箱に座り花山「これがソファーで」と、別の箱に座り「こっちが机だ」 
水田(伊藤淳史)「いやあの…
確かにソファーや机にはなりましたがこれでは寝る場所が…」 
花山「頭が固いね水田君は、いいかい?いや…秘密にしておこう」 
(一同)「えっ?」 
花山「自分で考える事も大切だからな、ハハハハハ!」 
美子「じゃあ我慢しますけど…」 
と、何だか思案顔の常子が箱に座り
「花山さんは何らかの方法でこの箱30個全部使うんですよね?」 
花山「そうだ」 
常子「何か手は加えますか?」 
花山「釘を使うだけだな」 
常子「そうですか、うんうんうん…」 
花山「私が何をするか分かったかね?ハハハハ!」 
常子「その事ではなく別のアイデアが浮かびました」 
花山「別のアイデア?」 
常子「先生のおうちをより快適にするためのアイデアです」 
花山「何だ?何をする?」 
常子「私も明日まで秘密にする事にします」 
花山「ん?」 
常子(憎たらしい感じで)「自分で考える事も大切なんですよね?」 
花山が顔をしかめる 
「フフフ」と楽しそうな常子「では女性陣の皆さん手伝って頂けますか?」 

タイトル、主題歌イン 

闇市に繰り出す常子たち

<この日常子たちは闇市で何かを手に入れ
翌日の模様替えに備えたのでした>

小橋家では君子(木村多江)が糊を煮ているようだ
3姉妹はちゃぶ台で作業している 

翌、社員総出+大工2名で東堂宅を訪れる一同
東堂夫妻が出迎える
チヨ(片桐はいり)「大工さんもいらっしゃるなんて随分大がかりなんですね」
花山「よりよい仕事にするためです、ちなみに釘を使っても?」
泰文(利重剛)「あ…どうぞ」
花山「ありがとうございます、では作業に入りますのでお二人はしばらく外で」
と、水田と大工たちが部屋へ入るが常子たちが入ろうとすると
「おっとっとっとっと」と花山が立ちふさがり「君たちも出来てからのお楽しみだ」

部屋の中から釘を叩く音が聞こえる
緑(悠木千帆)「一体何をしているのかしら」
鞠子「考えたけど分からなかったです」
美子「大きな棚にしてるんじゃない?釘でいくつもつないで」
常子「う~ん…でもそうすると部屋が狭くなってしまうわ」
美子「そっか…」
と、部屋から花山が顔を出し「よし、まずは君たち見ておくれ」

室内を見た常子が微笑む
緑「背もたれに収納できるんですね」
鞠子「箱の中の空間を利用するんですね」
花山「これなら無駄のない収納ができるだろう」
美子「はい、まさかリンゴ箱でこんな事ができるとは…」
箱に焼かれた刻印や貼られたラベルを確認する常子
花山「どうだい?常子さん」
常子「すばらしいです…が、やはり準備しておいてよかったわ」
鞠子と美子がうなずく (緑も「はい」)
常子「次は私たちのアイデアをご覧頂きたいんです
30分ほどお待ち頂けますか?」
花山「お手並み拝見といこうじゃないか」

水田が空のリヤカーを曳いて帰る大工たちを見送る

部屋の前のベンチに腰掛ける東堂夫妻
チヨ「どんな部屋になるのかしら?」
泰文「僅か六畳だ、たかが知れている」

戸を開ける美子「お待たせ致しました、皆さん中へどうぞ」

鞠子「どうですか?先生」
チヨ「これが…あの部屋?」
箱には模様のあるきれいな紙が貼られている
チヨ「これはどういう…?」
花山「ああ…変化できる家具です」
チヨ「変化?」
花山「ええ、こうすればソファーとして座る事もできる
ちょっと失礼(と背もたれの箱を前に出して並べて)
平らにして布団を敷けばベッドにもなる」
チヨ「この箱もお作りになったの?」
花山「いえ、果物箱を利用しました
タダ同然で売られているものを利用したのでかなり安く抑えられます
これなら雑誌の読者もまねできるかと」
チヨ「ええ、それにこの箱きれいな紙が貼ってあるんですね…まあすてき
アハハハハ…」と箱を重ねてみて「ほら、フフフ」と夫に振り向く
泰文も笑顔になっている
常子が花山に囁く「驚いて頂けました?」
眉をしかめて花山「まあな」
常子「フフフ、よかった」
花山「しかし君はよくこういう事に気が付くねえ」
常子「あっ、それは…」
チヨ「常子さん…ありがとう皆さん
少しの工夫でこんなに気持ちが豊かになるんですね
貧しくても不自由でも心がけ次第なのね」
3姉妹が顔を見合わせて笑い出す
チヨ「何かおかしな事言ったかしら?」
常子「先生、お忘れなんですね
それは先生が教えて下さった事じゃないですか
デパートの包装紙を本のカバーにして…」

(回想シーン)チヨ「きれいな包装紙を頂いた時は
工夫して本のカバーにしているの
ささやかですがこうした心がけが小さな幸せを生むと私は思っています」

チヨ「そうだったわね、フフフ…毎日の暮らしに追われてすっかり忘れていたわ
フフフ…(泰文に)あなたいかが?お気に召しまして?」
「ああ」と笑顔でうなずく泰文
常子「このお部屋は先生からご主人への贈り物です」
チヨ「そんな…私はお願いしただけです、皆さんがなんとか…」
常子「いえ、ご主人のお体を気遣って椅子と机と
本好きのご主人のために本棚
先生の言葉がなければこのお部屋は完成しませんでした」
泰文「そうか…ありがとうな」
チヨが少し涙ぐんだようにうつむき首を振る
泰文がチヨに並び一同に
「皆さんも手を尽くして下さり恩に着ます」と頭を下げる
一同も礼を返す
泰文「チヨ…この棚に荷物を片づけ終わったらお茶にしようか」
チヨ「ええ」

花山が部屋の模様と仲睦まじくお茶をする夫妻を写真に収める
(「あなたの暮し」第二号掲載)

事務所
常子「皆さんご苦労さまでした
おかげさまで東堂先生ご夫妻には大変満足頂く事ができました
早速、明日から記事の執筆に取りかかっていきましょう」
(一同)「はい」
常子「はい」
と、「ごきげんよう皆さん」と事務所に現れた花山を見て驚く美子「花山さん!」
水田「何なんです?その格好…」
自らの下半身を見て花山「うん?ただのスカートだが?」
(一同)「…」
花山「今日はお手柄だったね常子さん」
常子「えっ?」
花山「飾り紙で華やかに見せるとは盲点だったよ
あ~…時間に追われどこか雑になっていたんだな
ああいう女性らしいこまやかな気遣いに救われた」
常子「いえぃぇそんな…」
花山「多くの女性に向けた雑誌を作っている以上
編集長は女性の感覚を理解していなければ話にならん
そこで少しでも女性とは何を感じどう生きているのか学ぼうとこの格好をね
いや驚いたよ、こんなにも感覚が違うものなんだね
股がスカスカで不安定だ、ハハハハ
いや結局私はこれまで男の感覚でしか女性を見ていなかったんだ
しゃがむ事一つとっても男と女の所作が違う
それは家の中にある物の配置にも影響が出るかもしれない
背が高い男が取れるものを背が低い女が取れないような事だ
いや考えた事もなかった
うん、今日一日この姿で過ごしてみようと思う、ハハハハ」(と編集長室に入る)

<とても頼りになるけどやっぱりちょっと変わった人だと
改めて思う常子たちでした>

花山の女装に驚いて口が少し開いたままの常子と
なぜか何も見なかったかのように仕事に入っている一同

(つづく)

今回は何だかいいお話だった
回想シーンの「ささやかな心がけ」は46話のエピソードだね
いろんな意味で常子たちはチヨにいい恩返しができたと思う

このドラマでは花山が登場するまでは
アイデアを思いつくのは常子の役割だったから
2人のアイデア対決は自然といえば自然だろうか
花山との出会いでも常子はとんちで勝利しているし

今回はどちらが勝ったという訳ではないが
常子に感心した花山が女性の視点に立とうとスカートをはいてしまう
「今日一日」と花山が言っているから今後はもうなさそうなのでよかった
本物のオネエならともかく中途半端な女装はキツイ

ラストで一同が花山の女装の話題になるではなく仕事に没頭しているのは
早く忘れてしまいたいという事だろうか?
どうやら会社で花山は「ちょっと困った子」のポジションのようだ





2016年7月26日火曜日

とと姉ちゃん(98)恩返しと雑誌の企画も兼ねて東堂の家を模様替えする事になる常子たちだが…

雨の中、傘を差した3姉妹が東堂の家を訪ねる 
泰文(利重剛)「どちら様?」 
常子(高畑充希)「突然すみません、あの…
私たち東堂先生にご指導頂いていた小橋と申します 
東堂先生にお招き頂いたのですがご在宅でしょうか?」 
泰文「チヨが招いたのかい?」 
常子「はい、もしよろしければと」 
泰文「そう…あいにく買い物に出てまだ帰ってないんだ」 
常子「でしたらまた改めて出直します、失礼しました」 
泰文「あっ、待ちなさい…この雨だ、入りなさい」 

タイトル、主題歌イン 

雨漏りを受けた器に水滴が落ちる
東堂を待つ常子が天井を見上げている
と、「ただいま帰りました…あら」と東堂が戻る
鞠子(相楽樹)と美子(杉咲花)「先生!」
東堂「もういらしてたのね」
鞠子「はい、つい先ほど」
東堂「ごめんなさい、お茶うけを買いに出たらいいものが手に入らなくて
枇杷ぐらいしか(と木箱に包みを置き)お久しぶり!」
鞠子と美子「お久しぶりです」
東堂「随分おきれいになられたわね皆さん」
美子「そうですか?」
東堂「さぞ殿方に言い寄られるでしょうに」
常子と美子が鞠子を見る
鞠子「いえ、そんな事…」
美子「嘘です、今まり姉ちゃんに思いを寄せている方がいるんです」
東堂「あら!」
と、部屋の隅に所在なさげに立っていた泰文が「チヨ、いいか?」と
東堂を外に呼び出す

戸の外で泰文「どうして呼んだんだ?
こんな家、人に見せられたものじゃないだろ」
東堂「ごめんなさい」
泰文「寝床と居間が一緒になったようなこんな場所
恥ずかしいと思わないのか」
東堂「…ずっとそう思ってどなたもお呼びしてきませんでした
でも私たちの住まいはもうここしかないんです
それならば受け止めて…」
傘を取った泰文が歩き出す
東堂「どちらへ?」
泰文「散歩だ、こんなとこ5人でいたら息が詰まるだろ」

部屋に戻った東堂「ごめんなさい(と入口の戸に振り向き)
この薄さじゃ全部聞こえてしまったわね
もともとはああではなかったのよ、社交的でお仲間も多くてね
それが戦地で負傷して右手が動かせなくなってしまってからは
書道の方も続けられなくなって随分変わってしまったわ
その上、家も焼けてしまいここに住む事になってから
どなたもうちにお呼びしなくなってね」
鞠子「それなのにお邪魔してしまって…」
東堂「いいの…私もこのままでいいとは思っていませんでしたから
なんとかふさぎ込んでいるあの人を明るく変えたいわ
挑戦よ挑戦」
美子「いいですね、いずれお友達を呼ぶお気持ちになれれば」
東堂「それならお友達よりまず2人の時間を増やしたいわ
以前は時間さえあれば2人していろんな話をしたの
あの人がお茶にしないか…って声をかけてくれて
お茶菓子を頂きながらその日にあった事を報告し合ってね」
鞠子「すてきですねぇ」
東堂「そう、すてきな時間でした…
でもここに住むようになってからは2人でいる事がほとんどなくて
このお部屋居心地が悪いみたいで今日みたいにすぐ出かけてしまうの」
美子「じゃあまずは居心地のいいお部屋にするところからですかね」
東堂「そうね…でもこの狭さじゃ…フフフフ」

「どうしたもんじゃろのぉ…」と常子がつぶやく
事務所では一同が昼食をとるところ(うどん、じゃがいものふかしたもの他惣菜)
部屋から花山(唐沢寿明)が出てくる
「感心だな、昼休みでも時間を惜しんで企画会議か」
美子「あっ、いえ…」
鞠子「お世話になった恩師に何か恩返しできないか考えていたんです」
花山「おいおい…どうせ頭を使うなら
あなたの暮しで取り上げるべき題材を考えなさい!全く…」
常子「それでは頂きましょうか」
花山「よし、頂きます」
一同「頂きます」(礼をする)
と食事が始まるが何かを思いついたような花山「常子さん」
常子「はい」
花山「その恩返しだかを考えていたのはこの前話していた先生夫妻だよな?
六畳の物置に住んでいるとかいう」
常子「そうですけど…」
花山「さすがだな君たち」
常子「えっ?」
花山「ちゃんといいネタを探してきてるじゃないか!」

東堂家前
東堂「我が家の模様替えを?」
常子「はい、変化前と変化後のおうちを
雑誌の企画として掲載させて頂きたいんです」
鞠子「もちろん費用は全てこちらが負担します、お願いできないでしょうか?」
東堂が部屋の中の泰文に振り向く「でもこんな狭い家では…」
花山「この家だからいいんです!
このお宅のように今この国は満足な住居に住めない人で満ちあふれている
みんな狭い場所でどうにか耐えているんです
そのような環境で快適に暮らすための知恵を
ふんだんに盛り込んだ模様替えを提示できれば
これから家を新築・改築する際にも読者の参考になるはずなんです」
東堂「分かりました、そういう事ならお願い致します」
常子「お受け頂きありがとうございます」
東堂「さすが編集長さんですね(花山を見据える)
言葉の一つ一つに魂が宿っていて
心からの叫びという感じが伝わってまいりました」
花山「あっ…それはどうも」
常子が眉を上げて微笑む
美子「花山さんが照れるの初めて見た」
水田(伊藤淳史)が嬉しそうに「ええ」とうなずく
鞠子「東堂先生の前じゃみんな生徒になっちゃうのね」
常子「そうね」
と笑う一同に苦い顔の花山「ウ~ッ」
普段自分たちを振り回す花山がイジられて満足そうな常子
花山「早速拝見できますか?寸法など測らせて頂きたいので」

部屋の中
常子「あの…こんな部屋にしたいなどの希望はありますか?」
東堂「でしたら…本棚があるとうれしいわ」
常子「本棚…」(部屋の隅に本がそのまま積み重ねられている)
東堂「あの人、私以上に読書好きですから
それに…もし可能でしたら椅子と机が」
メモをとる常子「椅子と机…はい」
東堂「あの人、体がああですから座って読み書きするのもつらそうで…
椅子と机で生活できれば楽になると思うの」
常子「はい」
部屋の寸法を測る花山と水田

事務所
水田「本棚に机に椅子か…」
簡単な家具の模型を作り部屋の図面に配置してみる一同
常子「私、安請け合いしてしまいましたかね…」
鞠子「せめて本棚だけにして頂いたら?机と椅子はさすがに…」
常子「でもこれは先生がご主人のために…」
美子「でもこの3つ置いたら寝る場所が無くなっちゃう」
常子「そうだけど…」
花山「そこをなんとかできれば更に面白い企画になるな」
常子「そうですか?」(笑顔)
花山「だが無理難題だ」
常子「すみません…」
花山「よしっ、出かけてくる」
美子「妙案が浮かんだんですか?」
花山「気分転換だ、外の風にあたってくる」(と事務所を出る)
緑(悠木千帆)「花山さん、会社に戻ってきますかねぇ?」
常子「…だといいですけれど」

<しかし嫌な予感は的中しそれから3日花山は会社に姿を現しませんでした>

闇市の雑貨屋前(建材のマルキ)
鞠子「やっぱり家具を手作りするしかないのかしら」
美子「そうは言っても木材自体も高いんだから」
鞠子「そうよね」
水田「あっ!あの…これなんかどうですか?(と鞠子たちに椅子を指さし
店主に)これおいくらですか?」
店主「お目が高いねえ、こいつはアメリカ製で50円だよ」
眉をしかめた鞠子が水田の手を引っ張り場を離れる
「却下です、こんな高価なもの買える訳ないじゃないですか
もっと現実的に考えて下さい」
水田「あ…すみません」
そんな2人を見て美子が口を手で押さえて笑っている

<3日過ぎても常子たちは具体的な案が浮かばず…>

闇市を歩く常子がガード下の知恵の輪の露店の前にしゃがみ込む
花山を見つける「花山さん」
花山「お~奇遇だな」
常子「(もぅ…)奇遇だな…じゃないですよ
安くて使える家具はないかと手分けして探していたんです
今日も花山さんは会社にいらっしゃいませんし
もうこのくらいしか思いつかなくて」
花山「そうか…」(と知恵の輪を解いている)
常子「ひょっとしていつもここで知恵の輪を?」
花山「ああ、ここのは出来がいいんだ」
と、知恵の輪が解ける
花山「あ~ハハハハ!なあ!」
店主「お見事」
花山「どうだ常子さん!ハハハ!」
家具の事で頭がいっぱいでそれどころではない常子
花山「ところでお目当ての家具は見つかったかね?」(別の知恵の輪を手に取る)
常子「値が張るものでしたら…」(ガードの上を列車が通る)
花山「あぁ?」
常子(はっきりと大きな声で)「値が張るものでしたらまあ」
花山「読者が手に入れられるものでなければ紹介する意味はない」
常子「そうですよね…」
花山「それに買ったところで六畳の狭い部屋では活用できまい」
常子「そういう花山さんは何か思いつかれたんですか?」
と、店主に「また来る」と言って花山が立ち上がる
常子「もう…」

食堂のような店の前で突然立ち止まる花山
店横に積まれた木箱を手で探り「おい、おやじ!」
店主「へい」
花山「ここに置いてあるこの…この箱、売り物か?」
店主「あっ、これ?物がねえ時代だから何だって売り物だよ」
常子「これリンゴ箱ですよね、物を運ぶ時に使っていた」
花山「いくつある?」
店主「ああ、そうさなぁ…少なくとも30は」
花山「じゃあ30くれ!持って帰る」
店主「毎度あり!」
常子「花山さん?」
箱を立てたりして眺めている花山

<一体このリンゴ箱をどう使うでしょうか?>

訳が分からず箱と花山を見ている常子

(つづく)

東堂が泰文に常子たちの訪問を事前に告げず
雑誌への協力の件も泰文の許可なく決断してしまったのは不自然だが
泰文が明るさを取り戻すエピソードなのだろうから
お話しの流れ…みたいなものを優先させてこうなってしまったのだろう

東堂の言葉で花山が照れるシーンが面白かった
東堂も昔に戻ったように言葉が自信に満ちていたし
美子の「花山さんが照れるの…」からの流れが秀逸
鞠子のセリフもいいし何より常子の表情がいい

常子に関しては全編を通してまるで花山とビジネス上の夫婦のようだ
心の底では信頼しているのだろうが
とりあえずいちいち花山に対して腹が立ってしまう感じがよく表情に出ている
人間いつも一緒にいるとそうなってくるよねw

鞠子が50円の椅子を「こんな高価なもの買える訳ない…」と言ったのが
分からなかった
「あなたの暮し」は1冊50円で3万部売れたはずだし
常子が企画した講座の受講料は100円だ
この直前に物価の大幅な変動でもあったのだろうか?
ちなみに物語は現在、昭和22年初夏
新円切替があったのは昭和21年2月16日で1年半ほどが経過している


2016年7月25日月曜日

とと姉ちゃん(97)東堂との再会~「あなたの暮し」第二号の特集は「住まい」

昭和二十二年初夏 

<創刊号は直線裁ちのヒットで3万部を超える売り上げを達成し
販売部数の増加に伴って経理の経験を買われた水田が正式に入社 
もう一人庶務担当として岡緑が加わりました> 

緑(悠木千帆)「社長、日程表ですご確認下さい」 
常子(高畑充希)「もう…緑さんまた社長って」 
緑「ぁ…ごめんなさい…常子…さん」(笑顔) 
常子「はい、フフフ…ありがとうございます」 
緑「あのう…それと…今、花山さんの部屋に入っても大丈夫ですかね?
進行表の件でご確認を頂かないと」 
常子「怖いなら一緒に行きましょうか?」 
緑「是非!」 

2人が編集長室に入ると花山(唐沢寿明)は知恵の輪を解いている
常子「やっぱり…」
花山「何だ?そのあきれ顔は…これは説明したように…」
常子「はいはい、頭の中を整理されてるんですよね」
花山「ならとやかく言うな」
常子「言ってませんよ」
花山「言いたそうな顔だったんで先手を打ったんだ」(と可笑しそうに笑う)
目を剥く常子「はぁ~」 そしてあきれて目がクラクラしたといった表情になる
緑「あの…進行表のご確認を…」
花山「そこへ置いておいてくれ、後で見る」
常子「…(緑に)行きましょう」
緑「はい」
花山「待ちなさい」
常子「何ですか?」
花山「君ではない、緑さんだ」
緑「えっ?」
花山「あなたはどんな家に住んでいる?」
緑「あの…普通の家ですが?幸い空襲でも焼けずに」
微笑む花山「それは何よりだ」と、「そうか~…」と顔をしかめる
常子「どうしたんですか?突然」
立ち上がり部屋を出る花山
常子「は…花山さん?」
水田のデスクの前に立つ花山「水田君、君はどんな家に住んでいる?」
慌てて立ち上がる水田(伊藤淳史)「えっ…あ~今もバラックです」
デスクに身を乗り出す花山「何か困っている事はないか?」
水田「そうですね…あっ
最近壁の隙間から猫が入ってくるようになっちゃって
追い出そうか一緒に暮らそうか…」
なぜか電話の受話器を取り耳に当て
「そんなものがネタになるか~!」と大声で叫ぶ花山
水田「す…すみません」
花山「私が言っているのは広く世間にも通じる
住宅の悩みはないかと聞いてるんだよ!」
常子「ひょっとして次号の特集は 住まい ですか?」
花山「ああ、取り上げるべきだ間違いなく
誰もが皆、住まいへの不満を抱えている」

<終戦直後、国内の住宅事情は逼迫していました
空襲によって多くの家屋が焼失し
資材不足から12坪以上の住宅の新築・増築が禁止となり
狭い空間での生活を余儀なくされたのです>

美子(杉咲花)「あっ!」
花山「何だ?どんなアイデアだ?」
美子「あっ、いえ…知り合いからの手紙が」
花山「そんな事で声を上げるなぁ…」
美子「すみません…」
水田「どなたなんです?」
美子「それが…女学校時代のからの恩師でして」
常子「ひょっとして東堂先生?」
美子「そう」
笑顔で手紙をのぞき込む常子「あっ!…あ~懐かしい字」
鞠子(相楽樹)もやってくる「うん」

四日後

住所を頼りに家を探している常子
「桐野」の表札を見つける
木戸をくぐり庭の鉢植えをいじる女性に声をかける常子
「あの…こちらに…」
女「はいはい」と立ち上がり振り向く
常子「東堂先生…」
女・東堂(片桐はいり)「常子さん?会いに来て下さるなんて…」
常子「あの…近くまで仕事で来たので会いに来てしまいました」
東堂「日曜日もお仕事?大変ねえ…少しはお話しできて?」
常子「ええ」
東堂「ではうちにお上がりになって」
常子「はい」
東堂「ただ…とても狭いので覚悟して下さい」
常子「広いおうちを建てられないのは存じ上げております
確か12坪以下でしたよね」
東堂「ええ…こちらのお宅はそうなのだけどうちは…こっちなの
こちらはうちの人の親戚のおうちでね
私たちはこの物置に住まわせて頂いているんです」
常子「あぁ…」

狭い部屋の中央には膳代わりの木箱が置かれ
隅には積まれた書籍と畳まれた布団
壁の隙間は新聞紙を重ねたもので塞いでいるようだ
隙間風が吹き窓が揺れる
盆に湯飲みを乗せた東堂が戻ってくる「驚いたでしょう?六畳しかないの
お台所もないからいちいち借りに行かなくてはならなくて…さあどうぞ」
常子「頂きます」
東堂「失礼しましたね、いきなりお手紙を送りつけて」
常子「いえ」
東堂「直線裁ちが気になって何気なくあなたの暮しを手に取ったんです
(積まれた本から「あなたの暮し」を手に取る)
そうしたら皆さんを見つけて…思わず筆を!ウフフフ」
うなずく常子「うれしかったです」
東堂「すばらしい雑誌だわ…とても私の暮らしに役に立っています
これは女性の友であり同志です」
グっときて少し涙目の常子「ありがとうございます
東堂先生に教わった挑戦する事の大切さを胸に奮闘しております
何事も女性だからといって恐れずに挑戦する事が大切です…
先生のあの言葉があったから
私は自分で出版社を起こそうと決意できたのだと思います
女性だからといって自分の中に境界線を引いて諦めてしまう事を否定し
背中を押して下さったからこそ今の私があります」
東堂「私は小さな穴を開けたにすぎません
その穴に種を埋め水をやり日の光を注ぎ育て上げたのは
あなたの周りの方々とあなたご自身よ」
少し照れたように笑う常子「先生は今も教師を?」
東堂「ええ、50になってもなお
…教職者には定年がありませんからね
このまま体の許す限りは続けたいと思っています」
常子「ではあと10年はできますね」
東堂「いいえ、50年です」
「フフフ…」と笑ってうなずく常子
東堂「アハハハハ…こんなに楽しい時間は久しぶりだわぁ
いつもはうちの人と2人きりだから」
常子「今日はご主人は」
東堂「ええ、仕事で」
常子「確か書道家をなさっていると聞きました」
東堂「ええ…はい…
こうやって常子さんに来て頂くなら
愛着のあった駒込のおうちにおいで頂きたかったわ
たまにたてていたお茶のお道具や季節ごとの掛け軸なんて
高価ではないけど好きな小物がいろいろあったのよ
居間の一角に私の机があって廊下の一面が書棚になっていてね
居心地のいい家だったの
でも何もかも焼けてしまって…
まさかこんな暮らしになるなんて…」

事務所に戻り晴れない顔で席に座る常子
「お帰り」と花山が部屋から出てくる
常子「今日はお休みでは?」
花山「いい構図が浮かんだ
一気に表紙を描いてしまおうと思ってね」と常子にイラストを手渡す
その商店街を描いたような絵を見て微笑む常子「いいですね…
知恵の輪ではなくお仕事をなさっている花山さんはすてきです」
花山「知恵の輪も仕事の延長だ」
常子「分かっております」
花山「で…どうだった?原稿は受け取れたかい?」
常子「ええ一応…実は…知り合いの家に寄ってきたんです」
花山「先日の恩師か?」
常子「はい、空襲で焼け出され六畳の物置に2人でお住まいでした」
花山「物置?」
常子「先生は明るく振る舞って下さいましたが
やはり以前とは何か違うような気がしました」
花山「誰もが今、生活に追われている
次号もそういった人たちに役立つものにしたいのだが…」
常子「ええ」

夜、小橋家
小さな椀に入れたうどんを食べている一家
美子「いいなあ…東堂先生のお宅、私も行きたかった」
鞠子「そうよねえ、抜け駆けして」
常子「ごめんね、急に思い立っちゃって」
君子(木村多江)「先生は?お元気でした?」
常子「…はい、お変わりなく」
鞠子「旦那様は?どんな方だった?」
常子「あ~お仕事に出てらしてお会いできなかったの…
でも次はお会いできるかな」
鞠子と美子「えっ?」
常子「あっ、次の日曜日にね、お招き頂いたの
よかったら鞠子さんも美子さんも是非って…空いてる?」
鞠子「えっ、行きますとも」
美子「うんうんうん」

チヨの夫・東堂泰文(利重剛)が戸を叩く
「お帰りなさい」と戸を開けて迎える東堂
「今日は風が強かったですね、お寒くありませんでした?」
泰文「ああ」
泰文の肩にかけたカバンをとろうとする東堂に泰文「ああ、いい」
泰文は右手が不自由なようだ
元気なく座り込む泰文と夫を心配そうに見つめる東堂

<このチヨとの再会が
「あなたの暮し」の新企画へとつながっていく事になるのです>

談笑する小橋一家
美子「少し緊張する」
常子「そうね…そうね」
鞠子「何話したらいいかしら?」

(つづく)

終戦から2年たって常子たちはもんぺ姿じゃなくなってスカートをはいてたね

緑役の悠木千帆さんてどこかで聞いた名前だと思ってウィキで調べたら
樹木希林さんが昔使ってた名前を巡り巡って引き継いだみたいだ

花山は変なところで笑いだしたり受話器をつかんで叫んだりとやりたい放題
この前のスタジオパークに出演していた唐沢や伊藤の発言から
これらはほとんどアドリブなんじゃないかと思う
(94話の写真撮影のシーンで花山が「踊りたまえ」と言い出したのは
アドリブだと伊藤が語っていた、実際に踊ったりもしたがカットされたらしい)

水田の猫のエピソードはかわいすぎるだろっw
水田はどんだけ人が良くて優しいんねん!?

泰文は書道家なのに右手が動かなくなってしまったんだね
だから元気がないのかな?
ラストは寂しい東堂家と明るい小橋家が対比するように描かれたけど
焼け出された人と家が残った人
いち早く生活を立て直せた人とそうでない人
そして体と心に大きな傷を負ってしまった人
戦後はいろいろな境遇の人がいたのだろうね
(今でも地震の被災者などはそうなのだろうが)