2016年7月2日土曜日

とと姉ちゃん(78)小橋家に珍客が~終戦を知った常子はその時…

<激しい空襲が続き全国民の衣食住その全てが戦争の犠牲となった毎日 
沖縄の戦いでも多数の死者を出し日本の敗色がもはや決定的になる中…> 

家の前を常子(高畑充希)がほうきで掃いている 
そこへ三宅(有園芳記)が通りかかり挨拶する常子「おはようございます」 
だが常子に気が付かないといった感じで放心したように通り過ぎる三宅 
その後ろ姿を訝しげに見つめる常子 

<隣組の組長三宅のもとに息子の戦死を伝える知らせが届いたのは
桜が満開に咲き誇る頃でした> 

タイトル、主題歌イン 

昭和二十年初夏 

常子が鞠子(相楽樹)の首筋にベビーパウダーのようなものをつけている
鞠子「よっちゃん、そんな顔しないでよ」
美子(杉咲花)「だって見てるだけで痒そうなんだもの」
鞠子「まあ痒いは痒いけど」
常子「具合は?どう」
鞠子「まだだるい」
常子「そっか」
頭を掻いた鞠子が自分の手を見る「またこんなに抜けた…」
手には束になって抜けた髪の毛
常子「栄養が足りてないだけよ…精のつくもの食べればすぐによくなるわ」
美子「少しくらい何かないかな?栄養あるもの」
常子「どうかな…かかなら知ってるかも」

美子が探すと君子(木村多江)は表でせつ(西尾まり)と立ち話をしている
美子の栄養のあるもの…にせつ「ああ…蜂の子なんていいらしいわよ」
君子「蜂の子?」
せつ「山岡さんのお宅もね、体の悪いお父さんのために
なんとか工面してきたって言ってたもの
でも…この間の警報で盗られちゃったみたいで」
君子「盗られちゃったってどういう事ですか?」
せつ「あら小橋さん知らないの?はやってんのよ」
美子「何がですか?」

汁一椀の食事を囲む一家
常子「泥棒?」
美子「そう、最近横行してるみたい
空襲警報で防空壕に避難してる間に
家に上がって食べ物とかを盗っていくんだって」
常子「ひどい…」
鞠子「敵は米英だけじゃないって事か」
常子「あ…じゃあ食べ物どこかに隠さなきゃ」
君子「ああ…そうね」
美子「食べ物だけならいいけど」
常子「だけ…って?」
美子「泥棒に入るような人なのよ…もし見つかったら何されるか…」
鞠子「そうよね…」
常子「…そんな顔しないでよ
もし誰か来てもこっちは4人いるんだから大丈夫よ…うん?」
君子「そうよね…」

甲東出版 
本にはたきをかけている常子

<その日は本を借りに来る客は一人もいませんでした
早めに出版社を閉め家路を急いでいた時の事です>

空襲警報が鳴り響く中、帰宅した常子も壕へと入る

<再び市街地にB29による爆撃が始まったのです>

壕の中で呼吸の荒い鞠子「はぁ…」
常子「鞠ちゃん大丈夫?」と背中をさする

そのまま夜になり虫の声が聞こえる
美子「もう平気かな?随分たったよね」
うなずく常子たち
頭を掻こうとする鞠子を常子が止める「鞠ちゃん」
君子「もう少しの辛抱よ、そろそろ解除されるわ」
美子「でもこのままだと脱水症状起こして…」
常子「しっ!今、音しなかった?」
美子「音って空襲の?」
常子「違う…ほら…」
4人に聞こえる人の足音
鞠子「誰かいるの?」
美子「もしかして…」
常子「…まさか」
美子「じゃあ誰よ」
犬の鳴き声が聞こえる中、壕の蓋を少し上げて外を覗く常子
国民服のような足元が見える…
蓋を閉め家族に振り向いた常子「誰か…男の人」
美子「やっぱり泥棒だよ」
鞠子「やめてよ!」
美子「だって…」
常子「静かにしなさい」
もう一度蓋を開けて覗いた常子が振り向く「こっち来る」
体を寄せ手を握り合う4人
常子の脳裏に竜子の言葉が甦る「力ずくでやられたよ女なんて弱いもんだ」
鞠子「とと姉…」
美子「とと姉ちゃん…」
常子「大丈夫大丈夫」
男の手が壕の蓋にかかる
目を閉じる常子
そして蓋が開けられ顔を上げた常子たちが見たのものは鉄郎の姿だった
常子「叔父さん…」
鉄郎(向井理)「おう、久しぶり」
安堵のため息をつき力が抜けてしまったような4人
鉄郎「おい、早く出てこいよ」
立ち上がろうとした常子「ちょっ…あっ…」と動けない
鉄郎「ん?どうした?」
常子「すいません、こ…腰抜かしてしまって…」

ちゃぶ台を囲む5人
鉄郎「お前ら大変だったんだな」
鞠子「もう暑いやら怖いやらで…」
鉄郎「まあ…みんな生きてて安心した」
常子「叔父さんもご無事で何よりです」
鉄郎「しっかし大きくなったなあ美子」
美子「叔父さんは老けましたね」
君子「美子っ」
鉄郎「いいんだいいんだ俺みたいな苦労人は
人よりも早く老けちまうのかもしれねえからな」
鞠子「叔父さんの苦労は身から出た錆でしょ」
鉄郎「お前…栄養足りてねえのに口だけは相変わらず達者だな」
(一同の笑い)
鉄郎「あっ、そうそう…ほい」と君子にリュックを渡す
中を覗いた君子「この野菜!どうしたんです?」
鉄郎「ん~自慢じゃねえがことごとく事業が失敗して
知り合いの農家で手伝いしてたんだ、そこで貰った」
美子「卵がこんなに…」
常子「いいんですか?そんなに」
鉄郎「ああ」
美子「まり姉ちゃん、栄養いっぱいとれるね」
鞠子「うん…ありがとう叔父さん」
君子「助かります」
鉄郎「いいって事よ、数少ねえ身内なんだから…
心配だからしばらくここにいてやろうかな
もう年だからな、今更兵隊に引っ張られる心配もないし
男手があった方が何かと便利だろ」
君子「ええ、それはもちろん」
常子「いいんですか?」
鉄郎「ああ、頼まれたら断れねえたちだからよ」
鞠子「そんな事言って他に行く当てがないんじゃないですか?」
鉄郎「まあ…それもあるな」
美子「やっぱり」
常子も笑っている

<この混乱した世の中で
男の人が家庭にいると安心できる事を常子は実感したのです>

縁側で鉄郎の作った鍋を囲む3姉妹
常子「本当においしいんですか?」

<毎日不安を感じていた常子たちは
鉄郎が来てから少し気持ちが楽に過ごせるようになりました>

鉄郎と防空壕にいる小橋一家

鉄郎と薪割りをしている常子

<2か月が過ぎた頃…8月6日広島に9日には長崎に原子爆弾が落とされ
次は東京ではないかと恐怖に震えていました
その一方でこれで戦争が終わるかもしれないという噂も流れていました>

昭和二十年八月十五日

屋根の修理をしている鉄郎と梯子を押さえている常子
三宅がやって来て「小橋さん、正午にラジオを聴くように
重大発表があるそうだ」と言って去る

(ラジオからの玉音放送)「世界の大勢と帝国の現状とに鑑み
非常の措置を以て時局を収拾せむと欲し…」
正座して聴いている5人
美子「よく分からないんだけど…」
鞠子「しっ!」
鉄郎「負けたんだ…」
鉄郎を見る常子「えっ?」
鉄郎「日本が負けた…だから戦争は終わりだ」
神妙な顔の君子
少し不安そうな鞠子
戸惑っているような美子
そして思いつめるような表情の常子

通りに置いたラジオを聴くせつ、稲子、三宅たちは泣き、震えている

美子「日本はどうなるの?」
鞠子「アメリカの軍隊に占領されちゃうのよ」
鉄郎「…まあ、なるようになるだろ
さあて今日中に雨どいも直しちまうか」と席を立つ
鞠子「気楽な人」
美子「…とと姉ちゃんも怖いよね?」

<常子の胸の中で2つの気持ちがせめぎ合っていました
戦争に負けた悲しみと戦争が終わった喜びとが>

突然立ち上がる常子
君子「常子?」
やかんの水を湯飲みに注ぎ飲み干す

<結果、不謹慎だと思いつつも…>

「よ~し…できる…できるわよ!できる!」と妹たちを抱きしめ
「できるできるできるできる!」と笑顔で連呼する常子

<これからはやりたい雑誌をようやく作る事ができるかもしれない
その喜びが体じゅうを駆け巡ったのです>

妹たちにじゃれかかりはじけるように笑い続ける常子と
つられて笑顔になる鞠子と美子

また別の屋外で玉音放送を聴く一団の中
うつむき歯をくいしばるような花山(唐沢寿明)の姿

(つづく)

三宅は可哀想だった
すっかり力を落してしまったようだが…

壕の中で腰を抜かして立てなくなってしまった小心者な常子だけど
妹たちを心配させまいといつも強がっているのが健気だ

超久しぶりの鉄郎の「しっかし大きくなったなあ美子」には笑った
そりゃそうだ、歯磨き事件以来なのだから
美子はあの時はまだ姫奈ちゃんだったw
寅さんだって1年に2回くらいは帰ってくるというのに鉄郎ときたら…

浜松時代にも泥棒出没の噂とともに現れた鉄郎だが
米を勝手に食べて小橋家を食糧危機に陥れたあの時とは違い
逆に食料を持ち込んだね
やっと小橋家を救った鉄郎は髪に白いものが混じっていた(君子も少し前から)

終戦を知って日本が負けた悲しみよりもやりたい事をやれる喜びに
はしゃいでいるような常子だったけど、まあこれはドラマだからこれでいいと思う
実際、当時の日本人がどういう心境だったのか自分にはわからないが
サッカーの日本代表が負けただけで泣きそうになる自分なら多分…


2016年7月1日金曜日

とと姉ちゃん(77)お竜との再会~戦争が終わったらしたい事とは?

「お竜さん?」と、駆け寄る常子(高畑充希)
「お竜さん…お竜さん!あ…あの…私です…昔銀座で…」 
竜子(志田未来)「銀座?」 
常子「はい…ビアホールで…」 
竜子「ああ…マフラーの」 
常子「そうです…」 

タイトル、主題歌イン 

小橋家で常子が竜子の右腕に包帯を巻いている
竜子の幼い妹と弟も一緒だ
常子「それじゃあ川崎の親類のところに?」
竜子「ああ、他に頼るところもなくて妹たちと向かってたんだ…あ、痛っ」
常子「あっ、ごめんなさい…この怪我も空襲の時に?」
竜子「まあ…そんなところさ…」
「ねえ、きれいにしてあげるからおねえちゃんのところにおいで」
と、美子(杉咲花)が竜子の妹たちを呼ぶ
竜子「ほら、行ってきな」
鞠子(相楽樹)「さあ、こっちよ」
竜子たちは焼け出されて顔も服も随分と汚れている
君子(木村多江)「その節は娘がお世話になったようでありがとうございました」
少し恥ずかしそうな竜子「お世話なんかしてないよ」
常子「助けて下さったじゃないですか…
あ…よっちゃんがくれたマフラー無くした時もね届けて下すったの」
美子「お世話になりました」
竜子「もうよしとくれ」
「よかったら召し上がって」と君子が椀を3つ出す
「こんな時だから大したもの出せないけど」
椀の中には葉が少し浮いているだけで汁も透明だが喜ぶ竜子
「そんな事ないよ、あたいらにはごちそうさ!」
弟(庸蔵)と妹(和子)が「頂きます!」と汁をすする
竜子「空襲以降…何も口にしてなかったからね」
美子「下町の方はひどかったと聞きました」
竜子「警戒警報が解除されて安心しきったところで…
急に始まったんだ空襲が…
あたいは必死にこいつらに頭巾かぶせて防空壕へ放り込んだ
その直後…家に焼夷弾が落ちてきてね
とてもバケツなんかじゃ消せない火の海だった
このまま庭の防空壕にいたんじゃ焼け死ぬと思って
こいつらと一緒に逃げ出したんだ
どこもかしこもひどい有り様さ…火と煙と死体と悲鳴…
どこに行ってもそれが付きまとう
しまいには何とも思わなくなっちまったけど…」

夜、鞠子と美子が庸蔵と和子を抱いてあやしている
それを見ている竜子「あと何年続くんだろ…」
常子「えっ?」
竜子「戦争さ…あの子たちだっていつか兵隊にされて
どっか遠くに行かされる日が来るんじゃないかって…そう思うと…」
涙ぐんだ竜子が「悪い…」と表に出ていく

常子が様子を見にいくと竜子は家の前の石段にぽつんと座っている
隣に腰を下ろす常子「お竜さん」
竜子「おっかないんだ…去年の空襲で父親が死んだんだ
あたいまで死んじまったら弟や妹は…
そう考えるとおっかないんだ」
常子が間を詰めて身を寄せる「私も…焼け出された人たちを見て
同じ事考えました…私たちもいつどうなるかわからないって
明日焼夷弾が降ってくるかもしれないって…
もしそうなったら何としてでも私が家族を守らなきゃって」
竜子「あたいだって…守れるもんなら守ってやりたいよ…
ここに来るまでに庸蔵と和子に何か食わせてやりたくて
やっとの思いで食い物を恵んでもらったんだ
でも2人のところに行き着く前に奪われちまったよ…
男の2人組だったね…力ずくでやられたよ
この腕はその時の怪我さ」
常子「ひどい…」
竜子「今まで男に負けないつもりでいたけど
本気で来られたらとてもじゃないが太刀打ちできない
女なんて弱いもんだ…
そう考えるとあたい一人であいつらを守ってやれるか…」

常子と竜子が戻ると家の中では
戦争が終わったら何をしたいかという話をしていたらしい
常子「あ~庸蔵君と和子ちゃんは何がしたい?」
庸蔵「前にお姉ちゃんに連れてってもらった上野の動物園に行きたい」
和子「私も!」
竜子「ああ…いくらでも連れてってやるよ」
2人「やった~!」
常子「みんなは?何て言ったの?」
鞠子「私はそりゃあ好きなだけ小説を書く事よ」
美子「私はかわいいお洋服をいっぱい作って着たいなあって」
庸蔵「お姉ちゃんは?」
竜子「あたいは…特にないよ、戦争が終わってくれりゃ十分さ」
鞠子「…最後はとと姉」
常子「ん?」
鞠子「とと姉は何?」
常子「あぁ…う~ん私は…やっぱり雑誌作りかな
五反田さんと約束したの、みんなが戻ってきたら好きな雑誌を作ろうって
女の私でも自由にやりたい事を考えてそれを実現する雑誌をやりたい
フフッ、やりたいばかりだけど」
竜子「あんた、本を作る仕事なんかやってんだ」
常子「あ…以前お会いした時はタイピストでしたよね
私、今雑誌の編集者やってるんです」
美子が雑誌「新世界」を渡すが少し見てすぐにページを閉じる竜子
常子「あ…興味なかったですか?」
竜子「ああいや…」
庸蔵と和子が眠いと言いだして床につく一同

<その夜、常子はなかなか寝つく事ができませんでした
もし自分が生き残り戦争が終わる日を迎える事ができたなら
自分がやりたい事ができる雑誌を作りたいと本気で思い始めていたのです>

朝、部屋の障子を開けて廊下を見渡す常子

<翌朝目を覚ますとお竜と妹たちの姿はありませんでした>

戸を開けて表に出る常子
「おはよう」と竜子が声をかける
常子「あっ、おはようございます」
ほうきとちりとりを持った庸蔵と和子も元気に挨拶する
常子「えっ、何を?」
ほうきを手に竜子「見りゃ分かるだろ掃除だよ、泊めてくれたお礼にさ」
常子「ああ…ありがとうございます
黙って行っちゃったのかと思いました」と笑う
笑顔の竜子「そんな失礼な事するもんかい、あたいを誰だと思ってんだよ」

家の前で鞠子と美子が庸蔵と和子に縄跳び遊びをさせている

縁側に座り新世界を広げる竜子
常子がやってくる「お竜さん、西の方は電車が走っているそうなので
川崎まで行くには渋谷まで行くといいそうです」
竜子「そろそろ出ようかと思ったんだけどこいつが目に留まってさ」
常子が隣に腰を下ろす
竜子「なあ…これは何て題名だい?…悪いけど字が読めないんだ
仮名はなんとか読めても漢字はさっぱり…
ガキの頃から母親がいなかったもんで学校にも行かず
家の手伝いやらあいつらの面倒を見てきたもんだから…」
常子「…これは新世界という雑誌です」
竜子「新世界か…あのあと考えたんだけど
あたいは戦争が終わったらいろんな事を知りたいね」
常子「いろんな事?」
竜子「字もそうだけどさ
普通の人が当たり前のように知っている事を知りたい
あんたが羨ましいよ…
あんたはあたいが知らない事をたくさん知ってんだから」
常子「そんな事ありません
今まで働いてお金を稼ぐ事ばかり考えてきましたから…
私も知らない事がいっぱいあって
知りたい事や見たい事がまだまだたくさんあるんです」
ほっとしたように笑う竜子「そっか…あんたも一緒か」
笑顔でうなずく常子「はい」

竜子たちを見送る小橋一家

<この時お竜と語り合った事こそが
戦後の常子を大きく動かす事になるのです>

(つづく)

前回、防空壕から出て家屋の無事を確認し「よかった…」と呟いた常子だが
焼け出されたのが竜子だ(もうひとりの常子)
放ってはおけず家で休ませてあげたねエライよ常子

竜子はキャラなのか君子にもちゃんとした敬語は使えないんだけど
庸蔵と和子はきちんと挨拶できるし厳しくしつけられてる感じだった

鞠子の「…最後はとと姉」ってどういう事?
君子にも聞いてあげて!(常子たちがいない間に語ったかもしれないが…)

一晩考えた竜子は戦争が終わったらいろんな事を知りたいと言う
普通の人が当たり前のように知っている事を…
これが戦後に常子が作る雑誌の着想の原点みたいなものなのかな


2016年6月30日木曜日

とと姉ちゃん(76)鞠子が三宅に反論!~うれしくて泣ける時まで涙は我慢

貸本の客「おや…早じまいかい?今日は何かあるの?」 
常子(高畑充希)「あ~実は今日お誕生日のお祝いがあるんです…
私と一番下の妹が明日で真ん中の妹が5日なんです 
だからいつもこの時期になるとまとめてお祝いするんです」 

帰り道を歩く常子 
美子(杉咲花)が駆けて来る「とと姉ちゃん!」 
常子「ん?どうしたの?」 
「大変なの!組長さんが…」と抱えるように常子を引っ張る美子 
常子「えっ?」 

タイトル、主題歌イン 

小橋家、台の上に並べられた釜やフライパン
三宅「それじゃあここにあるものは全てこの家から運び出す、分かったな」
君子(木村多江)「はい」
三宅「係の者が後ほど取りに来るから間違いなく供出するように」
君子「はい…」
常子が戻ってくる「何されてるんですか?」
三宅「軍からお達しがあってな
現在金属がますます必要となってきているそうだ
必需品でなければ協力して頂く」
常子「協力はします、ですがこんなやり方は…」
三宅「またお前は盾つくつもりか?」
常子「…いえ」
三宅「分かればよろしい…
他に何か供出できるものはないか?」
三宅とお供の婦人たちが押し入れを開けたりして家捜しする
不快な表情の小橋一家
「おい…ここにあるのは何だ?」と机の蓋を開ける三宅
「立派なミシンだな…これは必需品か?
こんなもんがあるからもんぺに細工なんかするんだ」
常子「ちょっと待って下さい」
三宅「お国のためであるぞ!
日本国民なら持っていって下さいと言うべきだろ!違うか?
最前線では皆、命を懸けて戦っている
少しでもお役に立てるようにするのが我々の役目だ!
戦いを忘れるな!分かったか!」
口惜しそうに見つめるだけで何も言い返せない常子
三宅「おい…何だ?あれは…月に一度家族でお出掛け…
何がお出掛けだ!」と、欄間から家訓の額を下ろす
常子「やめて下さい!」
三宅「この非常時にこんなものを掲げやがって!」
常子「それは我が家の家訓なんです」
「家訓?家訓に何の意味がある!掲げるなら ぜいたくは敵だ にしろ!
非国民が!」と、額を畳に投げつける三宅
慌てて額を拾い胸に抱き三宅を睨みつける常子
鞠子(相楽樹)、美子、君子もあまりの事に顔が強張る
三宅「どうした?文句があるなら言ってみろ」
常子「…いえ…何も」
と、鞠子が三宅の前に歩み出る「いい加減にして下さい」
三宅「何?」
鞠子「私たちだって戦いを忘れてはいません
非常時だからこそ身だしなみを正す事で心を正すのではありませんか?
組長さんの国民服はぴしりとしてらっしゃいます
それは国民服にきちんとアイロンをあてて
心を正していらっしゃるからではないですか?」
三宅「何だと?」
鞠子「私たちはこのミシンで身だしなみを整えているつもりです
私たちも一緒に戦っているつもりなんです!」
三宅「…戦う事を忘れていないのなら今回はよしとする
ただし…その家訓だけは何とかしろ!
おい、引きあげるぞ」
婦人たち「はい」

常子「驚いた…まさか鞠ちゃんが組長さんに…」
鞠子「だから言ったでしょ、私だって言う時は言うんです」
「ごめん!」と頭を下げる常子に笑い出す家族
鞠子が「はぁ…」と大きくため息をつく
君子「家訓はしばらく押し入れに入れときましょうか」
美子「…やっぱり今日のお祝いは中止ですか?」
常子「その方がいいかもしれないわね…
組長さんに目をつけられても」
美子「楽しみにしてたのに…」
君子「今日は駄目でも明日はしましょう」
美子「本当ですか?」
うなずく君子「結果としてはよかったかもしれないわ…
明日の方がおいしく作れるから」
常子「ん?おいしくって…何がですか?」

君子が袋のものを「ほぉら~」と、ちゃぶ台の上のざるにあける
鞠子「どうしたんですか?この小豆」
君子「方々回って手に入れたの、あなたたちのお祝いに」
美子「じゃあもしかしてこれ…」
君子「お は ぎ よ」
顔がほころぶ3姉妹 常子「お~!」
君子「今から煮込めば明日にはおいしくなるわ」
常子「またかかのおはぎが食べられるなんて…よっちゃん?」
目を閉じて天を仰いだ美子が常子を手で制する
「想像してるの…出来上がったおはぎを…」
鞠子「明日になれば食べられるのに」
常子「もう…食いしん坊なんだから」
笑う一家

<こうして夜中まで小豆を煮込みおはぎを作る事になりました>

鍋の中の小豆
君子「大体煮えたわね」
炭箱の上の鍋を囲んでいる小橋一家
美子「匂いを嗅いでいるだけで幸せな気分」
鞠子「本当ね」
時計を見る君子「あっ、もう遅いわ、続きは明日にしてもう休みましょ」
娘たち「はい」
常子「火の始末は私がしておきますから寝る支度をしといて下さい」

常子が箱から炭を取り出していると空襲警報が鳴り響く
慌てて庭の防空壕に避難する一家
鞠子「警戒警報鳴らなかったよね」
美子「いきなり空襲警報だった…どうして?」
君子「分からないわ」
常子「…この空襲…いつもと違うわ」

<昭和20年3月10日午前0時8分
米軍による焼夷弾攻撃が開始されました>

爆撃の音に怯え体を寄せ合う一家
美子「やっぱりいつもと違うよ
いつもこんなに大きな音じゃないもの
…ねえ…こっち来ないよね?
ねえ…私たちどうなるの?ねえ!」
鞠子「大きな声出さないで!」

<東京にはB29爆撃機およそ300機が飛来し
爆撃は下町を中心に2時間余り続きました>

朝、恐る恐る防空壕の蓋を上げ外に出る常子
無事だった家を見て「よかった…」

小豆の鍋の蓋を開ける一家
黒く焦げてしまっている…
鞠子「七輪に残り火があったのね」
常子「ごめんなさい…せっかくかかがもらってきてくれた小豆だったのに
ちゃんと火を消していれば…」
君子「ううん」
鞠子「そうよ、しかたないよ」
美子が声を上げて泣き出す
君子「…美子…泣くのはもうやめましょう」
美子「…せっかくのお誕生日だったのに」
君子「生きている事に感謝しなきゃ…ねっ?」
美子の手を握る君子「いい?みんな…今日から泣くのは禁止します
次に泣くのはうれしい時…うれしくて泣ける時まで涙は我慢しましょう」
常子「はい」
鞠子「はい」
美子「はい」

小走りの常子と美子が立ち止まる
美子「あれ?」
常子「ん?」
「八百丸」の看板の前に人影はない
美子「今日の配給欠配かな?」
常子「ん~それにしても全然人がいないなんて変よ」
と、せつと稲子がやって来る
せつ「知らないの?夜中の空襲のせいで
しばらく配給はないかもしれないって」
常子「そうなんですか?」
稲子「下町じゃほとんど焼け野原らしいわ」
常子「焼け野原…」
せつ「特に深川の方はひどいみたいよ」
稲子「ほら…あの辺、木を扱ってるからほとんど燃えたって話よ」

<この日、東京だけでおよそ26万戸の家屋が焼失し
死者は10万人に及んだともいわれています>

重い足取りで帰る2人
美子「もしあのまま森田屋さんも青柳もあって
私たちもまだ住んでたらどうなってたんだろう…」

<ほんの僅かな差で自分たちは生きているだけ
簡単に人は死に自分たちも例外でない事を
いやおうなしに気付かされたのです>

美子「とと姉ちゃん…この人たち…」
見ると空襲で焼け出されたのだろう
荷物を抱えぞろぞろと歩いている人の群れ
その中で幼い子どもを連れた女性(志田未来)に
見覚えのあるような常子「お竜さん?」

(つづく)

また今回も三宅は憎たらしかった
女家族だと思ってやりたい放題みたい
お供の婦人たちも帰るときの戸の閉め方とか感じ悪かった

常子が反論できない中、鞠子がよく言ってくれた
前回の常子のセリフ「臆病なだけ」には違和感があったのだが
なるほど、この展開の伏線だったのか
鞠子はさすが常子に「もう少しうまいやり方もあったんじゃない?」
と言っただけあって三宅をうまくやりこめた(さすがインテリ)
まあ鞠子にもたまには活躍させてあげないとね!

しかし今回は鞠子だけではなく君子も珍しく活躍した(失礼!)
おはぎがダメになって泣き出す美子に「泣くのは禁止します!」
え~っ…君子さんそんな事言う人だったっけ?
うれしくて泣ける時まで涙は我慢…って何かすごくいい事言ってる感じする
のんびり屋さんの君子も大空襲で覚醒したのかもしれない…
生きてる事に感謝しなきゃって言ってたし今後も期待してみよう


2016年6月29日水曜日

とと姉ちゃん(75)五反田が出征して一人になる常子~防空演習では三宅に反抗するが…

常子(高畑充希)に社判を手渡す五反田(及川光博)
「社長が出征した時、預かったんだ…
五反田にも赤紙が来たらその時は小橋君に渡せ…と言われている…
僕らのような年寄りまで駆り出されるようでは戦争も長続きすまい 
きっとじきに終わるさ…それまで君が持っていてくれないか?」 
常子「分かりました…」 
五反田「…それから君一人になっても
この甲東出版って会社は存続できるようにしておいたから」 
常子「えっ?」 
五反田「うちにたくさんある蔵書を貸与する場所としてここを使う 
名目としてはその管理業務をしているとすれば
経営もなんとか継続できるだろう 
固定給はないが貸した分だけ君の取り分になる 
毎日出勤する必要もないしいい話だろ?」
常子「どうしてそんな…」
五反田「うちの会社がなくなれば君は無職だ
そしたら勤労動員になってどこか遠くへ駆り出されるかもしれない
その時…家族は誰が支えるんだ?」
「そんな事まで…」涙ぐんで頭を下げる常子「ありがとうございます」
「おいおい…泣きたいなら僕の胸を貸そうか?」
と、おどけて手を広げる五反田
笑い出す常子「結構です、フフッ」
五反田「ハハハ…君にもう一つお願いがあるんだ…
戦争が終わったあとはどんな雑誌にするか考えておいてくれないか」
常子「えっ?」
五反田「甲東出版はこれで終わりじゃない…休刊だ
僕も社長も…必ず…生きて戻ってくる
その時は僕たちが心から作りたい雑誌を作ろうじゃないか」
真っすぐにうなずく常子「はい」

<数日後、五反田は出征していきました>

昭和二十年一月

貸本と書かれた立て看板を出す常子

<常子は甲東出版を貸し本屋として切り盛りしながら
なんとか生活していました
しかし戦争は確実に小橋家の暮らしを侵食し始めていたのです
僅かに配給される食糧はサツマイモばかり
燃料も乏しく冷え込む冬の夜を4人で寄り添い寒さをしのぎます
ようやく眠りについたかと思えば…
繰り返し鳴り響く空襲警報におびえ一家の疲弊は増幅されるのです
それでも常子は…>

家庭菜園をいじる常子
美子(杉咲花)が「そろそろ収穫できそう?」と後ろから声をかけると
「まだまだじゃのう」と、目に何かをはさんだ常子が振り向く
美子「フフッ!おはじきばばあ!」

<笑いを忘れないように心がけていました>

花を生けている君子(木村多江)

<君子と鞠子も日々の暮らしの中で
心を豊かに保つ事を忘れてはいませんでした>

何かをすりこぎですりながらも読書している鞠子(相楽樹)

<そして美子は…>

はぎれで作った花びらのような飾りをもんぺの腰に当ててみる美子
常子「なかなかいいわね」
君子「とってもすてき」
美子「ありがとうございます」
常子「…ささやかな心がけが小さな幸せを生む…」
美子「え?」
常子「昔ね、東堂先生がおっしゃってたの…
確かにそのとおりだなあ~と思ってね」
鞠子と美子がうなずく
君子「こんな世の中だけどせめてうちの中だけでも
穏やかな心持ちで暮らせるように心がけましょう」

<防空演習は全員参加を義務づけられており
老若男女を問わず集められ訓練が行われました>

バケツリレーをする一同(女性ばかりのようだ)
常子「はい」と、バケツを渡す
鞠子「さすがとと姉うまいわね」
常子「一応経験者ですから、はい」
君子「もう10年以上前よね」
常子「うん…はい」
君子「すっかり立派になっちゃって」
常子「いろいろありましたから(笑)」
と、「何をしておる!」と声が響く
勘違いして「すみません」と謝る常子
見ると一人の女性が倒れ込んでいる
組長の三宅がやって来る「貴様!何をタラタラと!早く起き上がれ!」
女性を介抱するせつ「すみません、母はこのところ具合がよくなくて」
三宅「だから何だ!アメリカの攻撃は待ってくれないんだ
たった一人が足を引っ張る事でこの組全員が危険にさらされるんだ
分かってるのか!」
せつ「すいません!」
三宅「分かっているのなら早く立って演習に参加しろ!」
女性「はい…」
常子「ちょっと待って下さい」
常子を睨む三宅「何だと?」
常子が前に出る「演習が大切なのはよく分かります
ですがこれで具合を悪くしてこのあと動けなくなって
肝心な時に助からなかったら元も子もありません」
三宅「組長に意見するとは何事だ!
俺はお国の訓令により組長を仰せつかったんだぞ
それに盾つくという事はお国に盾つくという事か!」
常子「そうではありません、でも…」
三宅「よ~し分かった!いいだろう
ただし防空演習を休むなら非国民と見なし
お前らの家の配給を1人分減らす!」
せつ「えっ?」
常子「いくら何でもそれは…」
三宅「貴様も同罪だ!唆した者として配給はなしとする」
驚いた美子と鞠子が顔を見合わせる
三宅「国民ではないやつに食わせるものなどない!」
君子も茫然としている
三宅「どうした!俺の決定に文句があるやつは言ってくれていいんだぞ~!」
「それは…それは勘弁して下さい…やらせて下さい」
せつの母が三宅の足にすがりつく「お願いします」
三宅「分かった、今回だけは大目に見てやる
分かったら早く持ち場につけ」
不満気に立ちつくす常子に寄り添う美子「とと姉ちゃん行こう…」
と、三宅が「何だこれは」と美子の腰のあたりを指さす
「こんなものをつけて浮かれやがって」
驚く美子「浮かれてなんか…」
「口答えをするな!」と三宅が美子の腰から飾りを引きちぎる
「兵隊さんたちが命を張って戦っているのに
こんな事をして不謹慎だと思わんのか!
何を考えているんだ貴様らは!」
君子の方に向かう三宅「家では花まで飾ってるらしいな…
いいか!母親であるお前が目を光らせていないからだぞ!
進め一億火の玉だ!みんなが戦っている事を忘れるな!」
と、飾りを君子に返す
頭を下げる君子「分かりました」
三宅「いいか!戦況が厳しくなっている中
日本が一丸となるために一層協力し合っていかなければばならない
お互いが声をかけ合い変化がないかいつも気にするように!
分かったな?分かったら返事!」
(一同)「はい!」
釈然としない顔の常子

小橋家
飾りを手に美子「かか、怒られる事してごめんなさい」
君子「美子は悪くないわ…ただ…外でつけるのは控えましょうか」
美子「はい」
「…やっぱり私納得できない…ひと言いってくる」
と、立ち上がろうとする常子の腕を掴む鞠子「やめなさいよ」
常子「だって…」
鞠子「口答えすると配給を…」
常子「それがおかしいじゃない、均等に分けるべきよ」
鞠子「組長はどこもそんなふうらしいわよ
自分の家だけ多くする人だっているらしいんだから
それに比べたらあの人は愛国心の塊ってだけで…」
常子「だからってあの人の独断で決められるのは…」
鞠子「とと姉はいつもまっすぐすぎるのよ!
わざわざもめる事もないでしょう!
やり過ごす事で丸く収まるならその方がいい時だってあるわ」
常子「だったらあのまま見過ごせばよかったっていうの?」
鞠子「もう少しうまいやり方もあったんじゃない?」
常子「鞠ちゃんは気が弱すぎるのよ」
鞠子「えっ?そんな事ないわよ、私だって言う時は言うわ」
常子「どうかしら…臆病なだけなんじゃない?」
鞠子「何よその言い方!」
君子「やめなさい2人とも!
私たちがけんかしてどうするの
うちでは穏やかに…ねっ?」
常子「すみません」
鞠子「すみません」

と、稲子が訪ねてくる「今日は大変だったわね」
君子「いえ…」
家の鶏が生んだからと卵を1個差し出す稲子
君子「ありがとうございます」
稲子「いろいろ大変だと思うけど恨まないであげてね組長さんの事
出征してる息子さんからずっと届いてた手紙が途絶えたらしいの…
心中察するとねえ…」
君子「そうだったんですか」
稲子「同じ組なんだもの仲よくやりましょうよ、ねっ」

稲子が帰り君子「真中さんから卵頂いたの」と部屋に戻る
美子「お隣さんがいい人でよかった」
君子「うん」
鞠子「そうかな…」
常子「ん?」
鞠子「監視に来たのかもしれない」
常子「監視?」
鞠子「組長さん言ってたじゃない?うちの中に花が生けてあるって…
どうして知ってたの?」
考え込むような常子
鞠子「もう…誰を信じていいのか分からない」
君子「みんな…同じように感じているのかもしれないわね
隣同士で疑い合って…」
常子「…そう思うと…怖いですね」
美子「は~あ…昔はよかったな」

<常子は深川での日々に思いをはせました
森田屋の皆はどうなったかなぁ
綾は?清は?隈井は?…星野は?
過ぎ去った日々を懐かしく思い返してしまうほど
常子たちは追い詰められていました>

受け入れ難い現実に押しつぶされそうな顔の常子

(つづく)

今回も五反田はかっこよかった
自分が出征した後の常子の暮らし向きの事まで手配してくれるなんて…
あれは常子も泣いちゃうよね
でもそこで抱きしめようとして
常子の肩に触るソフトなセクハラで自分を一旦落すのも
五反田流の照れ隠しなのだろうか?
常子も笑いながらしっかり断ってたw
この2人には セクハラ→断る の流れが
挨拶代わりのコミュニケーションだったのかもしれないね

三宅が新しい憎まれ役だが最後にはいい人に化けるのだろうか?
鞠子によれば「愛国心の塊ってだけ」とのことだが…
息子の事で平常心を失っているのかもしれない

常子と鞠子の言い争いは途中から論点がずれて
ただのケンカになっちゃったんでさすがに君子が止めたみたいだ
前回、鞠子が弱味を見せたからって常子も「臆病なだけ」とか言わんでもw

監視の件は真実はどちらでもいいのだろう
君子が言っているように見張り合うような社会では
皆が疑心暗鬼になってしまうところが怖ろしいという事かな

常子の防空頭巾姿が微妙だ
似合っていないのか似合い過ぎているのかわからない



2016年6月28日火曜日

とと姉ちゃん(74)戦争のせいで苦しむ家族を想う常子は雑誌作りを…

<常子は再び千葉の農家を訪ねました、今回は美子もともに> 

満員の汽車に座り込み揺られている3姉妹 
美子(杉咲花)は風呂敷に包まれた大きな箱を胸に抱えている 

農家で包みを開けて老人と女の子に箱の中のおままごと道具を見せるが
言葉が出てこずにうつむいてしまう美子  
常子(高畑充希)「よっちゃん」 
女の子を見て微笑みを作る美子「楽しんで使ってね」
女の子「うん、ありがとう」 
美子「どういたしまして…見てこれ、蓋が開くの…すごいでしょ」 
女の子「すご~い」 
女の子に説明を続ける美子を辛そうに見ている常子 

タイトル、主題歌イン 

帰り道、それぞれが野菜を手に抱え農村を歩く3姉妹
美子「よかったよかった、かかも喜ぶわね」
「うん」 常子と鞠子(相楽樹)がうなずく
鞠子「でもこんなにもらえるなんて思わなかったね」
常子「そうねぇ」
と、うつむいた美子の足が止まる
鞠子「よっちゃん?」
美子が座り込む
常子もしゃがんで「うん?」
美子「おばあちゃまは…私たちのために下さったのに…
いろんなものが無くなっちゃった…
森田屋の皆さんは高崎に行っちゃったし…
おばあちゃまはお店をやめてしまったし…
まり姉ちゃんだって小説家諦めて工場で働いて…
全部戦争のせいよ」
常子「よっちゃん…」と、泣いている美子の髪を撫でる
美子「ごめんなさい…泣かないつもりだったのに」
優しい顔で首を振る常子「ううん」
背中のあたりをさすられ常子にすがりつくように泣く美子
鞠子も美子の頭を撫で、抱き合う3姉妹
遠くを見るような目で美子の背中をさすり続ける常子

縁側に座り、膝の上に新聞紙を置き鉛筆を削っている鞠子
常子が来て声をかける「どこまで削るつもり?」
鞠子「あっ…短くなっちゃった」
鞠子の隣に腰を下ろす常子「気にしてるの?よっちゃんに言われた事」
鞠子「えっ?」
常子「小説家諦めて働いてるって」
鞠子「ううん、それは前も話したとおり
今はそうするのが一番と思ってるから…ただ…」
常子「ただ…?」
鞠子「とと姉…戦争っていつ終わるのかな?
もしもこの先10年20年と戦争が続いたら
私はそれまでずっと工場で働いてるんだよね
家族に無理させて女子大まで行かせてもらったのに今の私には何もない
手に職もないしお金をたくさん稼ぐ事だってできない…ごめんんさい」
常子「何言ってるの」
鞠子「けなげに振る舞ってるよっちゃん見てたら情けなくなっちゃって
…だから私決めた
せめて次女としてみんなを支えられるようになるって」
励ますように笑顔でうなずく常子

<このころ東京をはじめ日本各地は
米軍のB29爆撃機による空襲を受けるようになっていました>

一椀だけの夕食をすする君子(木村多江)と鞠子と美子
鞠子「とと姉随分遅いね」
君子「常子は原稿が届くから遅くなるかもしれないって」
美子「ごちそうさまでした…ねえ、畑のニンジンそろそろ食べられるかな」
鞠子「まだまだよ、やっとこのぐらいの大きさになった頃よ」と、指を広げる
美子「は~あ…デパートでチキンライス食べたあの日が懐かしい…
またどこか行きたいな」
君子「ずっと行けてないものね…お出掛け」
3人が竹蔵の家訓を眺める

甲東出版
小さな明かりの中、机に向かう常子と五反田(及川光博)
「はぁ~疲れた…原稿が読めなくなってきたよ
やっぱり日中にやっておくべきだったな」
常子「お手伝いしましょうか?」
五反田「いや、君は帰っていいよ僕もそろそろ切り上げるから」
常子「あ…でもきりのいいところまで」
常子を見る五反田「常子君」
常子「どうしました?」
五反田「実は…」
常子「はい」
五反田「いや…やはりいい、やめとこう」
常子「え~何ですか?おっしゃって下さい」
五反田「…分かった」と、立ち上がり常子のそばに行き
「君にはちゃんと話そう…実は…」
すると空襲の警報が鳴り響き2人は防空壕へと向かう

鞠子「空襲よ!かかは?」
美子「ご不浄」
鞠子「よっちゃんは早く防空壕に」
美子「でも…」
鞠子「いいから急いで!」
「はい」と、庭にある壕の蓋を開け中に入る美子
家の中に戻る鞠子「かか!」
君子「鞠子、美子は?」
鞠子「防空壕です、急いで下さい」と、防空頭巾を渡す
君子「はい」と、頭巾を被りながら庭に出る
君子の背中を押すように「かか早く!」と庭に降りた鞠子が大きく転ぶ
君子「鞠子!」
美子「まり姉ちゃん大丈夫?」と、壕から出てくる
君子「しっかりつかまって」と2人で鞠子を助け起こす
鞠子は苦痛に顔を歪めている

警報が鳴る中、五反田が常子の手を引いて走る「よし、ここに入ろう」
後ろを振り向く常子「私やっぱり家に戻ります」
手を離さない五反田「今は駄目だ避難しろ、さあ早く!」

壕の中で鞠子と美子の肩を抱く君子「大丈夫よ、ねっ」
鞠子が右足首をさする

大勢の人がいる壕に並んで座る常子と五反田
常子は家族を心配しているようだ

<空襲は長く続きました>

朝、壕から出た常子「五反田さん
私、家に帰らせてもらいます、家族が心配で」
五反田「ああ、お帰り…気を付けて」

<空襲の影響で電車は動かず常子は家まで走りました
一刻も早く家族の無事を知りたいその一心で>

「帰りました!かか!」と家に飛び込む常子
美子「とと姉ちゃん!」
常子「ああ!よっちゃん!」
君子「常子!無事だったのね!」
常子「かか!無事でよかったです…鞠ちゃんは?」
君子と美子が顔を見合わせる

縁側に座り右足首に布をあて押さえている落ち込んだ表情の鞠子
常子が来て隣に腰を下ろす「鞠ちゃん…大変だったわね」
鞠子「とと姉…」
常子「うん?」
鞠子(涙声)「駄目だったよ…とと姉の代わりになろうって思ったけど
私全然駄目だった…足くじいてみんなに迷惑かけるし
怖くて何もできなくて…」
常子「…鞠ちゃん…」

<この時、常子の気持ちは固まりました>

甲東出版で机に向かう常子
五反田がやって来る「おっ、今日は随分早いんだね」
立ち上がる常子「あ…昨日はありがとうございました」
五反田「ご家族は大丈夫だったかい?」
常子「はい、おかげさまで…五反田さんは?」
五反田「うん、家内も息子も無事だったよ」
常子「ああ…よかった」
五反田「しかし…亡くなった方も大勢いたらしい」
常子「…」
五反田「そんな悲しい顔は美人には似合わないよ」
小さく微笑みうなずく常子「…五反田さん」
五反田「うん?」
常子「ずっと悩んでいたんですが…
お国を守るために戦争をしなければならないのはしかたのない事です
軍人さんが命を懸けて戦って下さっているのもよく分かっています
ただ…戦争をたたえるような雑誌を作る事が私にはどうしても苦しくて…
いろいろなものを奪っていくような戦争をたたえ
国民をあおるような雑誌を作りたいという気持ちにはどうしてもなれないんです
なんとかして違う内容の雑誌を作る事はできないでしょうか」
考えを巡らせているような五反田が立ち上がり常子のそばに来る
「じゃあ僕がその苦しみから解放して進ぜよう」
常子「えっ?」
五反田「もう雑誌は作らなくていいんだ」
常子「どうしてですか?」
五反田「…僕に赤紙が来た」
五反田を見上げたまま目を見開く常子「そんな…」

(つづく)

鞠子が転ぶシーンに笑った(ごめんなさい!)
あのこけかたはどんくさい感じが出ててよかったと思う
鞠子は常子と違って運動が苦手な設定なんだよね

それにしても転んだくらいであんなに落ち込まなくてもw
家に戻った常子が「鞠ちゃんは?」と聞いた時の君子と美子の様子から
そうとう凹んでたんだろうな…というのは想像できる

まあ美子に小説家を諦めたって指摘されて無力な自分を思い
じゃあせめて次女として家族を支えようと思った矢先に
転んでしかも空襲の恐怖で何もできなくて更に無力感を味わったのかな…

そんな鞠子を見て常子の気持ちは固まったとの事だが
戦争讃美の雑誌は作りたくないという常子に
「もう作らなくていい…僕に赤紙が来た」と五反田
五反田がなんだかちょっとかっこよく見えた

2016年6月27日月曜日

とと姉ちゃん(73)食べ物にも困窮する時代の中、美子の小さな決心

<昭和19年、常子たちが深川を離れ2年余りの歳月が流れていました> 

満員の汽車に揺られている常子(高畑充希)と鞠子(相楽樹) 

<開戦から3年ほどを経た太平洋戦争は
アメリカ軍が既にフィリピンまで迫り日本は窮地に立たされていました 
国内の物資不足も深刻化し常子たちは物々交換で農作物をもらおうと
千葉へ出かけていきました> 

大きなリュックを背負い農村を歩くもんぺ姿の常子と鞠子 

薪を割る男「着物なんか要らないよ、仕事の邪魔だ」 

別の農家で頭を下げる2人 
常子「着物と食べ物交換して頂けませんか?」 
煮炊きしている女「どうせ安物でしょう?」 
鞠子「着物だけじゃなくて万年筆もあります」 
女「そんなの要らないわよ
みんないろいろ持ってくるから有り余ってんのよ」 
言葉もなく無力な顔の常子 

タイトル、主題歌イン 

また別の農家を訪ねる2人
小さな女の子が貝殻を重ねて遊んでいる
常子「ねえねえ何してるの?面白そうね」
女の子「全然面白くない、他に遊ぶものないだけ」
常子「そっか…」
と、女の子の祖父が現れるがやはり着物や小物は要らないとのこと
老人「そうだなあ…孫が喜ぶようなおもちゃはないか?」

帰り道、農村を歩く2人
常子「どこもかしこも厳しいわね」
鞠子「ねえ…うちにあるあれなら交換してもらえるんじゃない?」
常子「あれって何の事?」
鞠子「おままごと道具よ」
常子「ああ…でもあれはよっちゃんがおばあ様に頂いた大切な…」
鞠子「けど…他に何かある?」
常子「…よっちゃんが何て言うか…」

東京 目黒

庭で草を摘んで匂いを嗅ぐ美子(杉咲花)「これ食べられるかなあ」
花壇のような家庭菜園をいじる君子(木村多江)「それ雑草よ」
美子「でも昔、星野さんは食べられる雑草もあるって言ってたわ」
君子「ああ…でも私たちには区別が…」
と、雑草を口に入れた美子が「苦っ…」
君子「アハハハハもう!本当に食いしん坊ね」
「のんじゃいました」と言う美子と2人で笑っていると
「おい不謹慎だぞ!」と木戸を開けて男が入ってくる
男(三宅)「戦地では帝国陸海軍が命を懸けて戦っているというのに
笑い声を上げるとは何事だ!」
頭を下げる君子「すみません組長さん」
三宅「慎みたまえ!」

縁側に座り白湯を飲む君子と美子
君子「最近組長さんよく顔出されるわね」
美子「あの人嫌い…目が蛇みたい」
君子「そんな失礼な事言うんじゃないの」
美子「どうしてあんな人が隣組の組長さんなんでしょう」
君子「う~ん…他はお年寄りばかりだもの
男の人はあの人ぐらいしか残ってないからね」
美子「かかが一番失礼な事言ってる気がする」
と、笑っていると再び木戸が開きビクッとする2人
帰ってきたのは常子と鞠子だ
何も成果が無かった事を報告する常子
残念がりながらも君子「仕方ないわ、ご苦労さまでした」
鞠子「よっちゃん…あのね…」
美子「ん?」

居間でちゃぶ台を囲む4人
美子「嫌よ、これだけは絶対に嫌!」
鞠子「私だって嫌よ、けど他に交換できるものがないんだから…」
美子「おままごと道具を手放すなんて…
とと姉ちゃんもまり姉ちゃんも冷たすぎるよ!」
常子「よっちゃんの気持ちは分かるけど…でももう他に方法がないの」
美子「これはおばあちゃまとの思い出が詰まった大事なものなのよ」
常子「…」
君子「美子が嫌がるのならやめましょう
庭のお野菜もあるしなんとかやっていけるわよ」
鞠子「でも…」
美子「私が食べる分減らします…だからお願いこれだけは勘弁して」
美子を見つめている常子

<戦況が悪化する中
常子が勤める甲東出版は細々と営業を続けていました>

机に向かい作業している常子
外から戻った五反田(及川光博)「その後ろ姿たまらないね」
常子「お帰りなさい、次の号の見本出来ましたか?」
「ああ」と、カバンから冊子を取り出す五反田
常子「あ~随分薄くなりましたねえ~」
五反田「仕方ないさ、紙が回ってこないんだから
それに僕たち2人で作るにはこのぐらいが限界だ」

<既に五反田以外、全員召集されていたのです>

常子「まさか社長まで…」
五反田「兵隊が足りなくなって年寄りまで召集し始めたのは知っていたが
社長までとられるなんてな…
まあ僕もいつお呼びがかかるか分からないんだけどね」
常子「そんな事おっしゃらないで下さい…
私一人じゃ雑誌を作っていけません」
「すまんすまん」と笑う五反田

<毎日の暮らしをなんとか守り続けるのが精いっぱいでした
それは他の皆も同じで…
鞠子は工場で事務の仕事を始めて既に3年余りがたち…
女学校を卒業した美子も縫製工場に働きに出て
日々、軍服作りにいそしんでおりました>

同僚たちと弁当を囲む美子
皆が美子の弁当をすてきだと褒めるのだが
ふかしたさつまいもの上に桜の花を型どったにんじんをのせただけのものだ
美子「母が工夫して詰めてくれるの」
と、ひとりの女工が食欲がないと言う
聞くと兄に赤紙がきたらしい
他の女工の兄も2か月前に召集されたという
また別の女工「うちは父が…」
美子のところは?と聞かれるのだが
美子「うちは女ばかりの家族だから…」
女工「よかったわね、その心配がなくて」

考え込むように歩く美子が帰宅すると女たちの声が聞こえる

おおきなタライを囲み洗濯している君子とご近所らしい稲子とせつ
稲子「やだ!じゃあお宅も組長さんから注意受けたの?」
君子「ええ、不謹慎だと」
稲子「三宅さんねえ…息子さんが出征されてから人が変わったわよねえ」
せつ「ええ」
君子「息子さんがいらっしゃるんですか?」
せつ「そうか…小橋さん越してくる前だったものねえ」
稲子「もう何年たつかしらねえ…今頃は北支か南方かしら」
君子「そうなんですか…」
せつ「多分…息子さんが戦ってる分
ご自分たちもお国のために何かをって思うんでしょうね」

三宅の息子の話に思うようなところのある表情の美子

夜、見回りの声が響く「火の用心!米英撃滅!」

小橋一家
美子だけが布団に入り眠っている
常子「先に寝ちゃうなんて具合でも悪いのかしら」
鞠子「疲れてるんじゃない?工場忙しいらしいから」
今月の「新世界」を読み終わったと言う鞠子に常子
「戦争の事ばかりで面白みもなかったでしょう」
鞠子「まあ…」
常子「最近は検閲が厳しくて戦意高揚の内容じゃないと出版できないのよ」
鞠子「不満がたまるわね…作りたい雑誌も作れないなんて」
常子「私も五反田さんに同じ事言ったわ…」
君子「…辛抱しましょう
今はお仕事があるってだけでもありがたい事なんだもの」
常子と鞠子「はい」
と、窓の戸を叩く音がする
常子が窓を開けると三宅が顔を出す
「おい何をしている、ここから明かりが漏れているぞ!」
常子「あ…」
三宅「そんな不用心な事で敵機に狙われたらどうするつもりか!
気持ちがたるんでいるぞ!」
常子「すみません、気を付けます」と頭を下げる
三宅「しっかり閉めておけ!」
「はい…失礼します」と、窓を閉めカーテンを閉じる常子
鞠子「…こんな時間まで見回りしてるなんて…」
美子がむっくりと布団に起き上がる
常子「ああごめんねよっちゃん、起こしちゃったね」
美子「ううん…考えてたの」
常子「え?」
布団から出てちゃぶ台の前に座る美子
「あのね…やっぱりあのおままごと道具、食べ物と換えて下さい
みんな我慢したり苦しんだりしてるのに
うちは家族を兵隊にとられる心配もないし
こうしてみんな元気に暮らしていられる…
それだけで十分よね」

<大切にしてきたものまでもはや手放すしかないのかと
常子は悲しく思いました>

美子の決心に小さくうなずく君子と
物憂げな表情の鞠子と常子

(つづく)

冒頭の常子と鞠子が並んで歩く2ショットに懐かしい感じがした
浜松時代はいつも一緒に駆けていたし
森田屋初期ではリヤカーで一緒に弁当配達もしていたが
その後はヒロイン常子の就職、失恋、失業に
先週は青柳商店閉店と、滝子との絡みの薄い鞠子不足だったからなあ…

久しぶりにセリフらしいのを喋った鞠子は相変わらず合理的だ
美子のおままごと道具を放出するべしとの事だが
これは滝子との思い出の品…
やはり美子は納得しないのだが
同僚たちの家族の出征の話や
バカにしていた三宅にも苦しんでいる事があると知り
自分だけが子どものままではいられないと思ったのかもしれないね

ところで常子は五反田と2人きりで大丈夫だろうか?
「その後ろ姿たまらないね」と、相変わらずソフトなセクハラを続けているが
五反田は言うだけで満足できる「口だけセクハラ男」だといいのだが