2016年7月13日水曜日

とと姉ちゃん(87)言葉の力の持つ怖さ~常子が落とした財布を届ける花山だが…

花山(唐沢寿明)「コーヒーは好きか?」 
常子(高畑充希)「えっ?」 
花山「よく飲むのかと聞いている」 
常子「いや…あまり」 
花山「私は…母親が好きでね…それで私も好きになった…座りなさい」 
「はい」と常子がカウンターの席に座る 
コーヒーを淹れながら語る花山「うちは貧しい家でね
母親が女手一つで私たち兄弟を育ててくれたんだ
生きていくのがやっとで母は毎日とても苦しそうな顔をしていた
だが私が10歳のある日、母の顔が突然変わってね
元始 女性は太陽であった 真正の人であった…」
常子が微笑む「平塚らいてう」
花山「そうだ、らいてうの青鞜を読み母はようやく明るくなったんだ
言葉には人を救う不思議な力があるんだと子ども心に感じてね」
花山が常子の前にコーヒーを置く
「私もそんなふうにペンで力のある言葉を生み出し
人を救ったり人の役に立つ仕事をしたいと…
そうして言葉や絵の仕事に就くようになったんだ
やがて戦争が始まり私も召集されたんだが戦地で結核を患い帰国した
…戦う事がお国のため人々のためになると思っていた私は
役に立てなかった自分を責めた
そんな時に内務省で宣伝の仕事の誘いを受けたんだ
これは運命だと思った…」
常子「それで人のお役に立とうと?」
花山「お国が勝てば全ての国民が幸せになれる…
それから私は戦地で戦う友のため
国のために尽くそうとペンをとり言葉を選んだ、ポスターも書いた
…何の疑いもなく一億一心の旗を振って
戦争に勝つ事だけを考えて仕事をしてきた
だが去年の8月15日…その時初めて気付いたんだ
小さい頃から何よりも正しくて
優先して守るべき大事なものがあると言われていた事が
実は間違っていたんじゃないかと…
そしてそれまで言葉には人を救う力があるものだと思ってばかりいて
言葉の力の持つ怖さの方に無自覚のまま
それに関わってきてしまったのではないかとね」
常子「怖さ?」
花山「そうだ…焼夷弾は分かるよな?」
常子「はい、戦時中さんざん見ましたから」
花山「どんなものだと教わった?」
常子「あ…家々を燃やすために作られたから落ちてきたらすぐに消すようにと」
花山「そう、爆弾は怖いが焼夷弾は恐るるに足らず…
という言葉を教えられただろう?」
常子「はい」
花山「その言葉は印刷され回覧板で回され皆それを目にした
新聞や雑誌の記事にもなった
だがそれは誤った言葉だったんだ
爆弾は怖いが焼夷弾は恐るるに足らず?
とんでもない!
焼夷弾も恐ろしい爆弾に変わりはなかった
それを伝えてしまうと誰も火を消そうとせず逃げてしまう
火災はますます広がる
それを恐れてあえて誤った言葉を教えた…
それを信じた人々はどうした?
落ちてきた焼夷弾の火を消そうと必死で
焼夷弾は怖くないと信じ込んだ子どもたちが…
老人が!女たちが!
バカ正直にバケツで水を運んだ!
…気が付いた時は逃げ道はなかった
最初から逃げていれば無駄に死なずに済んだのに…
私ももし戦時中に
焼夷弾は怖くないと書けと言われていたら書いていただろう
そうしたらそれを信じた無辜の命をどれだけ奪っていたか分からん
言葉の力は恐ろしい…子どもの頃から人の役に立ちたくて
人を救いたくてペンを握ってきたはずだったのに…
そんな事も分からずに戦時中言葉に関わってきてしまった
…そして終戦になって
信じてきた事の全てが間違っていた事に気付かされた時
もうペンは握らないと決めた…
これが全てだ
さあもう帰ってくれ…」
常子「…分かりました…今日は帰ります」
花山「今日は…じゃない!二度と…来るな」
首を振る常子「やっぱり諦められません…
花山さん、私はどうしても女の人の役に立つ雑誌が作りたいんです
たくさんの女の人たちが今、この戦後の日本で
物がない、お金もない、仕事もない…
先行きが見えないこのひどい状況の中で必死にもがきながら生きています
そんな皆さんの毎日の苦しい暮らしに
少しでも明かりを灯せるような雑誌を作りたいんです
…コーヒーありがとうございました、また来ます」
花山「来んでいい!」
常子が出て行った後、カウンターに手をつき首を振る花山
と、床に財布が落ちている事に気付く
慌てて表に出るが常子の姿はもうない
がまぐちの財布を開いてみると内側に常子の名前と住所が書いてある

せつ(西尾まり)「雨漏りが?」
君子(木村多江)「ええ、すごいんです」
せつ「だったらちょうどいいわ
今うち大工さんが来てるの、戸の立てつけが悪くて
うちのが終わったら君子さんとこ寄るよう言っとくわ」
君子「いいんですか?」
せつ「いいのいいの」
君子「あ…でも…」
せつ「お代なら大丈夫よ、うちの親戚筋だから気にしないで
今の世の中持ちつ持たれつよ」
君子「ありがとうございます」
せつ「じゃあ大工さんに伝えとくね」
君子「はい、すみません」
せつ「またね」
君子「はい」
君子が家に入るとすぐに住所を写したメモを手に花山が現れる
表札を確認する花山「ごめんください」
「は~い」と、玄関の戸を開ける君子
花山「あの…こちらは小橋さんのお宅ですか?」
君子「あら…随分お早いんですね」
花山「はい?」
君子「お待ちしておりました、よろしくお願い致します」
花山「待っていた?私をですか?」
君子「ええ、さあさあどうぞどうぞこちらへ」
「いや…」と首をひねりながら家に上がる花山
居間の天井を見上げる君子「これなんです」
花山「何がです?」
君子「天井です」
天井には大きな雨漏りのシミがある
花山「随分ガタが来ているようだが」
君子「さすが分かるんですね」
花山「そりゃあ見れば分かりますよ
天井の他にも家のあちこちが傷んでる」
君子「そうなんですよ
女しかいないものでどうしても手入れが行き届かなくて」
花山「はぁ…」
君子「あっ、すみません、ではお願いします」と、どこかへ行こうとする
花山「いや、ちょっと待って下さい」
君子「すみません、私夕飯の支度が」
花山「いやいや待って下さいお願いとは一体…」
(美子の声)「ただいま帰りました」
君子「あっ、お帰りなさい」
美子(杉咲花)「かか、遅くなってごめんなさい」
君子「ううん」
美子「雑誌はまり姉ちゃんに任せて手伝いに戻ってきました」
君子「あらいいのに」
美子「だって雨漏りの修理は?」
君子「それがね、大工さんに来て頂けたの」
驚いた顔で花山が振り向く
美子「そうなんですか…よろしくお願いします」
花山「いや私は…」
美子「私も手伝います」
「そうじゃない!あの…何か勘違いをなさっているようですが
私は雨漏りの修理になど…」
と、天井のシミを見た花山が「こんなにしやがって…」と呟く
怪訝な顔をする君子と美子
突然「あぁ~!」と頭をかきむしる花山に驚く君子たち
美子「あの…」
怒りを抑えるように花山「道具はどこだい?」
美子「道具?」
花山「金づちやらの大工道具だよ」
美子「大工さんなのに持ってないんですか?」
花山「いいから持ってきなさい!」
「はい!」と慌てて道具を取りにいく美子
花山「このちゃぶ台どかします」
「あっ、はい」と様子がおかしいとは思いながらも花山とちゃぶ台を運ぶ君子

破れているのか口が開いているカバンを提げて歩く常子
おそらく家に向かっているのだろうか

(つづく)

8月15日全てに気付いた…とは何に気付いたという事なのか?
花山の話が長いので解りにくいが大きく分けて2つだろうか
一つ目は小さい頃から何よりも正しくて優先して守るべき大事なもの
(暗に天皇の事を言ってる?)があると言われていた事が
実は間違っていたんじゃないかと気付いた事
二つ目は言葉の力の持つ怖さに気付いたという事
そしてそんな事も分からずに戦時中言葉に関わる仕事をしてしまった事に
責任を感じているからペンを握るのをやめたという事だろう

常子の「また来ます」に笑った
確かに理由を聞いたら帰るとは約束したが
二度と来ないとは約束してないからなw

久しぶりに君子の大ボケがさく裂した
いつ以来だろう?
1話で常子を受け止めるためにざるを持ってきたのが印象的で
大ボケキャラだと思っていたが
その後はそういうシーンはそんなにはなかったかなあ

花山も最初に「小橋さんのお宅ですか?」じゃなくて
「小橋常子さんのお宅ですか」と言わなければダメだろう
小橋なのは表札を見れば分かるんだし…
まあそれだと君子がボケられないけどねw

それよりも一番不自然なのが美子だ
帰宅したら居間の真ん中に知らない男が仁王立ちしているのに
君子が大工だと紹介するまで
まるで目に入らないかのように君子と普通に会話してしまっている
花山は幽霊じゃないんだからっ!

天井のシミを見て「こんなにしやがって」
と、花山が修理をする気になったのは几帳面な性格だから?
物が傾いていたり配置が乱れていると
すぐに直さないと落ち着かない人物設定なのはこのエピソードのためかしら

初対面時に策を弄して花山にイラストを描かせた常子だが
財布を落としたのはわざとじゃなくてガチみたい
ラストで常子のカバンが破れているからだ
呑気に歩く常子の顔が花山の言ったマヌケ面に見えるw




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