2016年7月16日土曜日

とと姉ちゃん(90)二号雑誌を成功させ去る花山~豊かな暮らしを取り戻すために…

封筒に入った報酬をちゃぶ台に置く常子(高畑充希)
「おかげさまで全て売り切りましたっ」 
花山(唐沢寿明)「増刷してもすぐに売れるだろう」 
改まって礼を言う常子「いろいろとありがとうございました」 
鞠子(相楽樹)と美子(杉咲花)と君子(木村多江)も常子にならう
「ありがとうございました」 
花山「約束は守った、あとは自分たちでやるんだな」 
常子「花山さん、これからも編集長を続けて頂けませんか?」 
花山「一度だけという約束のはずだ」 
常子「私も鞠子も美子も花山さんに一から雑誌作りを教えて頂きたいんです」 
美子「お願いします」 
鞠子「お願いします」 
花山「私はもうペンを握らない…今回は君たちを見守るだけだった」 
常子「でしたら次号も同じように…」 
花山「本気で関わるとなるとそうはいかん!」 
美子「だったら本気で関わって下さい!
花山さんが本気で関わりたいと思う本作りを私たちにも携わらせて下さい」 
「…すまないがそのつもりはない…失礼するよ」
と立ち上がる花山を見つめる常子 

タイトル、主題歌イン 

玄関を出た花山を常子が表で見送る
花山「常子君」
常子「はい」
花山「一つ忠告しておくが今のままではすぐに売れなくなるぞ」
常子「なぜです?」
花山「まねされて売れなくなるのは経験済みだろ?
そうならないためには一朝一夕にはまねされない本を作るしかない」
常子「そういう本を作るのであれば編集長を引き受けて頂けるんですか?」
花山「そんな事は言っとらん…
こんな時代だからこそ伝えなくてはいけない事があるはずだ
…だが実際には作れんよ…そんな金のかかる雑誌…」

花山家
茜が膳でお絵描きをしている
電話で話す花山「やっと一区切りついた、そちらの仕事に参加させて頂くよ」
縫い物をする三枝子(奥貫薫)が花山の背中を見る
花山「うん…では月曜に…よろしく」
受話器を置いた花山が振り向く「背広とネクタイを出しておいてくれないか
次の仕事に必要になるから」
三枝子「あ…みんな食糧に換えてしまったのでないんです」
花山「そうか…」
三枝子「すみません」
花山「いや」
三枝子「…本当にもう挿絵や文章を描かないおつもりですか?
もうペンを握らないという方があんなにきれいに筆記用具を…」
隣の間の机の上にいつでも使えるように並べられた筆記用具
「…ただの習慣だ」と微笑み机に向かう花山
花山の背中を見ている三枝子

台所で手を黒くして何か(炭団[たどん]という燃料らしい)を握っている常子
花山の言葉を思い出す
(こんな時代だからこそ伝えなくてはいけない事があるはずだ…)
常子が家族を見る
美子は玄米を瓶づきしている
鞠子は鉛筆を削っている
君子は縫い物をしている
(だが実際には作れんよ…そんな金のかかる雑誌)
と、何かを思いたちハッとなる常子

どこだか貧しい家が立ち並ぶ路地を駆け抜ける常子

やはり貧しい家が並ぶ道をネクタイにYシャツ姿の一行と歩いている花山
長澤「花山、この辺り一帯だ、事務所が入るビルの建設予定地は」
花山「何だって?」
長澤「どうした?」
花山「ちょっと待ってくれ
そうなるとここに住んでいる人たちはどうなるんだ?」
長澤「よそに行ってもらうしかないな、国が進めている事だ、しかたない」
花山「立ち退かせるのか?空襲で焼け出されて行き場がない人たちだぞ」
長澤「しかたないだろ、こいつらは勝手に住み着いてるんだ
出ていけと言われて文句を言える立場じゃない」
長澤が誰かに呼ばれて場を離れる
と、国民服を着た男(磯部勉)が花山に話しかける「たばこ持ってないかい?」
花山「いえ、私は吸わないので」
国民服「そうか…あんた陸軍さん?それとも海軍さん?」
花山「はい?」
国民服「どうなってんだ?今の戦局は」
花山「何をおっしゃってるんです?戦争はもう終わったじゃありませんか」
国民服「戦争が終わった?勝ったのか?」
花山「負けたんです、何を今更…」
国民服「嘘をつくな!(花山の胸ぐらをつかみ)
日本は神国だぞ、神風が吹くんだ!
負けるなんて事絶対にあるか!分かってんのか!フフフフ…ハハハハハ!
日本国万歳!万歳!万歳!」
叫び続ける国民服の男を知り合いらしい男たちが連れていく
帽子を被った男(つまみ枝豆)「悪いな」
花山「いえ」
男「あいつ…まだ戦争が終わってないって思ってんだよ
戦地で息子亡くして空襲で女房娘を亡くして全てを失って耐えてきたのに
ある日突然、はい負けました…じゃやりきれねえよ
たとえ戦争に勝ったとしてもかあちゃんと子どもたちと引き換えに
何が残るってんだ…なあ」(と、国民服の男のところへ向かう)
泣き続ける国民服の男に目をやった花山がうつむく
そして足元に転がる空襲で焼け残った穴の開いたボロボロのフライパンを
拾い上げ眺める
「花山さん」
振り向くと常子が立っている
常子「こんにちは…お宅に伺ったら奥様が仕事仲間の方とここへと」
花山「何の用だ?」
常子「…答えが…何となく分かったんです
花山さんがおっしゃっていた誰にもまねされない雑誌…
衣服だけでなく衣食住にまつわる全ての中で
毎号私たちが大切だと思うものを調べて
実際にその生活の知恵を実験してみて体験した事を読者に伝えて
皆さんの生活が今日よりも明日と少しでも豊かになるような雑誌」
花山「ああ…そんな雑誌を作る事ができたらとこのところ考えていたんだ
…しかしそれにはとても金がかかる、何もかも実際に作ったり試したり…
そんな事ができる訳がない、夢みたいな雑誌だ」(土手に腰かける)
常子「できますよ、私となら」
花山「なぜできると言い切れる?」
常子「根拠はありません
でも、私が花山さんと一緒にやってみたいと思ったんです…それだけです」
目を閉じうつむく花山
常子「それに花山さんおっしゃってたじゃないですか
何よりも優先して守るべきだと思い込んでいたものが
間違っていたと気付かされた…と
だったら…もう間違えないようにしませんか?」
(長い沈黙)
花山「…私は戦争中、男には毎日の暮らしなどよりも
もっと大事なものがあると思い込んできた…思い込まされてきた
しかしそんなものはなかったんだな
毎日の暮らしを犠牲にしてまで守って戦うものなど何もなかった
毎日の暮らしこそ守るべきものだった」
常子「毎日の暮らし…」
花山「人間の暮らしは何ものにも優先して一番大事なものなんだ
それは何ものも侵してはならないたとえ戦争であっても
今ようやく分かった
もし、豊かな暮らしを取り戻すきっかけとなる雑誌を作れるのなら…」
常子「私となら…必ずできます
始めましょう!新しい雑誌作りを」
手にしたフライパンを見る花山

赤子を背負いタライで洗濯する母親
まな板で調理する老婆
鍋の蓋を取る女
貧しいがそれぞれに暮らしを持つ女性たち

目を伏せて考え込んでいた花山が少し目を上げる
「あの2人は何をしている?」
常子「えっ?…あっ、鞠子と美子ですか?多分今、家で…」
立ち上がる花山「バカ者!一瞬たりとも遊ばせておくんじゃない!
四六時中雑誌の事を考えさせておけ!」
常子「すみません…」
花山「全く明日からが思いやられる!」
常子「お力を…貸して頂けるんですか?」
花山「君は家族思いだから孝行娘の手伝いをしてやるだけだ
君らのためにペンを握ってやる」
常子「ありがとうございます!本当に嬉しいです」
花山「終戦の日以来、初めて他人の…それも
女性の言葉を信じてみたくなったんだ!」
花山の言葉に感極まった様子の常子「…でしたら…私も人生を賭けます」
花山が常子を見る
常子「私も自分の人生の全てをかけて新しい雑誌を作ります」
小さくうなずき笑い出す花山「ハハハハ…分かった…よろしくな、常子さん」
常子(照れ笑い)「さん…だなんてそんな…」
花山「君は社長だ、君(くん)…という訳にはいかんよ」
うなずく常子「はい…よろしくお願いします、花山さん」
花山「ああ」

<こうして常子と花山の
人々の暮らしを豊かにするための雑誌作りが始まったのです>

(つづく)

今回は花山が新雑誌の編集長になる事を決意するまでが描かれた
その要因はいろいろあるのだろうが流れで整理すると

常子だけではなく美子にも(鞠子や君子も同じ気持ちだろう)強く望まれた

ペンは握らないと言いながら筆記用具は処分していない
(妻の三枝子も花山にペンを握ってほしいと望んでいる)

長澤とは社会的弱者に対する視点で意見が合わない

戦争の亡霊のような国民服の男はかつての花山のようでもあり
花山がああなったかもしれない可能性でもあるのかな
男が失った毎日の暮らしは二度と戻らない

自分が夢想した雑誌に常子も思い至った(夢を共有できた)

常子の言葉「もう間違えないようにしませんか?」

こんな感じだろうか…
豊かな毎日の暮らしのためにという理想を2人が共有したのだろうが
常子の「人生の全てをかけます」が気になる…
竹蔵との「ととの代わりをする」という約束が
悪く言えば呪いのように常子を縛る事もあったような気がするが
この言葉が新しい呪いにならなければいいのだが…




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