2016年5月21日土曜日

とと姉ちゃん(42)常子、露店で歯磨きを売る

女学校の中庭に面した廊下を後ろ手に組みスキップしている常子(高畑充希) 
資料室から出てくる東堂(片桐はいり)「小橋常子さん」 
振り向く常子「東堂先生!」と、やはりスキップで間を詰める 
東堂「何だか足取りが軽いわね」 
ご機嫌に笑っている常子「東堂先生のおかげで胸のつかえが下りました」 
東堂「そう、それはよかった…じゃあ妹さんの進学の件も解決されたのね?」 
口元にだけ笑顔が残っている常子 
東堂「心配してたのよ~
鞠子さんご家族にも言えずに一人で悩んでいるようだったので…
まあ私も言わないでほしいと言われた手前
勝手にあなたにお伝えする事もできなくて…でも安心しました」 
常子「…進学の件って何ですか?」 
東堂「妹さんからお聞きになったのでは?」 
常子「進学の事など全く」 
「平塚らいてうが詩集を出しました、お貸ししましょう」と、逃げ出す東堂 
目を丸くした常子が「あ~ごまかさないで下さい」と、追いかける 
中庭に降りる東堂「きれいな言葉であふれていて…」 
追う常子「どういう事ですか?進学って」 
東堂「何でもないの、別の生徒さんの話でした」 
常子「先生、もう聞いてしまったので諦めて下さい…先生!」 
(少しの間) 
振り向く東堂「実は先日妹さんが…」 

(回想シーン)中庭の噴水のへりに座る鞠子(相楽樹)と東堂
鞠子「私…文学を学ぶために大学に進学したいんです
林芙美子や平塚らいてうのように将来作家として生きていければいいなあと…」
東堂「それはすてきな挑戦ですね」
鞠子「でも女学校まで行かせてもらった上に進学するなんてうちにはとても…」
東堂「お姉様やお母様に、まずお話ししてみたらどうかしら?
あなたのその熱い思いを口にする事は決して無駄な事じゃなくってよ」
目を伏せる鞠子

常子「大学進学…知りませんでした…」
東堂「てっきりご家族に相談されたものと…」
常子「すみません、ご心配おかけして」と、頭を下げて鞠子の胸の内を思う

<常子の決意は以前にも増して固まりました。
歯磨き事業を成功させ自ら収入を得てみせる。
そして鞠子を進学させ鉄郎の借金も肩代わりする。
そう心に誓ったのです>

小橋一家の部屋に鉄郎もいる
ちゃぶ台で半紙にKTと書く常子
君子(木村多江)「KT?」
常子「鞠ちゃんが考えてくれたんです」
鞠子「小橋のKと常子のTから取ったの」
君子「あ~」
鉄郎(向井理)「しゃれてんじゃねえか」
美子(根岸姫奈)「いいねえ」
「KT歯磨」と書いた常子「よし出来た~!」
鉄郎「よし、名前が決まったところで次なる展開を説明するぞ
いよいよ大量生産して大々的に売り始める
いいか?商売ってのはな手広くド~ンとやってうまくいくんだ
今のままチマチマやっててもただのままごとだからな」
常子「お~!」
君子「いやぁ…」
鉄郎「何だよ姉さん」
君子「それってお金かかるわよね」
鞠子「うん」
常子「ああ…あ~そんなにお金は…」
すると鉄郎が懐から分厚い封筒を取り出しちゃぶ台に置く
「どうだ?すげえだろ」
封筒の中を覗く常子「どうしたんですか?」
鉄郎「用意したんだよ」
美子「でも叔父さんお金ないんじゃ」
鉄郎「虎の子の何とやらよ、ここで借りなくていつ借りるんだよ
大丈夫だって、すぐに取り戻せんだから」

<まずお金を返した方が…>

封筒を手に常子「お~!」
鉄郎「とりあえず姉さんと鞠子と美子は大量生産のための場所を確保
お上への届けは俺が出しといてやる
それから常子、お前は俺と顧客の新規開拓をする」
常子「はい」
鉄郎「いいな?」
(一同)「はい」

「KT歯磨 三十銭 十包入り」の立て看板
露店を構えた鉄郎が「よく見とけよ」と、口上を始める
「さあさあお立会いお立会い御用とお急ぎでない方は
ゆっくりと聞いていきな見ていきな
遠目山越し笠のうち聞かざる時は
物の出方善悪黒白がとんと判らない
(鉄郎の顔を不思議なものを見るように横に立ってながめている常子)
山寺の鐘がゴーンゴーンと鳴るといえども
法師きたって鐘に撞木をあたえなければ
鐘が鳴るのか撞木が鳴るのかとんとその音色が判らない
さてお立会い
手前ここに取りいだしたる品物はこれKT歯磨き
歯磨きと言ったってそこにもあるここにもあるというものとは格が違う
一塗りすればいい気持ち
二塗りすれば虫歯撃退
三塗りすれば歯槽膿漏がピタリと止まる」
口上に乗せられワラワラと集まってきた一同「お~!」
鉄郎「さあどうだ効能が分かったら遠慮は無用だ
どしどし買ってきな~買ってきな~」
客「よし買った!」
鉄郎「お~し、はい1つ」
大きく口を開けて驚く常子「ありがとうございます!」
そこから飛ぶように歯磨きが売れよどみなく客をさばく鉄郎

<常子は生まれて初めて鉄郎を尊敬しました、そしてついに…>

常子「あっ、あ…あ~これで完売致しました」
残念そうに並んでいた客たちが去っていく
道に出てその背中に常子「申し訳ございませんでした!
あの…深川の仕出し屋森田屋でも取り扱っておりますので
お近くにお越しの際は是非お買い求め下さい!」
そして鉄郎を見て台を叩き笑顔で飛び跳ねる「叔父さんすごいです!」
手で制する鉄郎「まあざっとこんなもんよ、え~っともうけはと…」
すると「ちょいとごめんよ」と、着流しの男が声をかける 後ろには背広の男
男たちを見た鉄郎が「がっ…」と絶句して萎縮するも常子を後ろに隠す
着流し「随分と景気がよさそうじゃねえか小橋の旦那」
鉄郎「へへ…おかげさまで…」
着流し「おい、兄貴に挨拶がねえじゃねえか」
「あっ…ああどうもいつもお世話になって…」と、背広の男に鉄郎
着流しが鉄郎の手から売り上げの入った籠をひったくる
売り上げを目で追う常子「ちょっとやめて下さい!」
着流し「ああ!?貸した金返してもらっちゃ悪いかい?」
鉄郎を見る常子
顔をそむける鉄郎
「旦那~!足りねえなあ」と、背広に売り上げを渡した着流しが
「いつになったら150円耳そろえて返すんだ~!ああ!?
それともてめえこのまま豚の餌にでもなるか!?」
鉄郎「あ、いやいやもう…もう少しだけ待って頂ければ…」
着流し「アテはあんのかい?」
鉄郎「そりゃもちろん…この歯磨きでさぁ!」
常子「ちょっと叔父さん!」
鉄郎「旦那方も見てたでしょ?1つ30銭で飛ぶように売れてくんですよ
これから大量生産しますんで借金なんざあっという間に返せます!…です!」
背広の男に何やら耳打ちされた着流し「よ~し待ってやるか」
鉄郎「ありがとうございます!死ぬ気で作って死ぬ気で売ります」
着流し「その必要はねえ!てめえらの歯磨き10個1銭で買い取らせてもらう」
鉄郎「えっ?」
常子「それって安く買いたたいて高く売ろうって魂胆ですか?」
着流し「察しがいいねえお嬢ちゃん」
常子「それじゃあ私たち大損じゃないですか」
着流し「ああ!?これで借金チャラにしてやろうってんだ
悪い話じゃねえと思うがな~小橋の旦那」
鉄郎「ヘヘヘ…いや…いや旦那方にはかなわねえや」
常子「叔父さん!」
着流し「話はまとまったな」
常子「待って下さい」
着流し「深川の森田屋だったな!1週間後に取りに行くから
せいぜい気張って作っときな!」と、去っていく男たち

<一瞬でも鉄郎を尊敬した事を、常子は深く深く後悔しました>

夜、(君子鞠子美子)「え~!」
君子「どんなに売ってもその人たちのもうけに?」
鞠子「大量生産すればするだけ赤字になるじゃない!」
美子「叔父さん!」
地面に膝をついている鉄郎「いや…申し訳ない
はぁ…どうしたもんじゃろのぉ…」
常子「こっちのセリフです!」
そこに宗吉(ピエール瀧)が現れ鉄郎を飲みに誘うがさすがに断る鉄郎
腕組みして鉄郎を睨んでいる小橋一家の4人
宗吉「遠慮すんなって~こないだおごってもらった礼だよ
歯磨きのおかげで店の売り上げも上がったしなあ」と、常子たちを見る
宗吉「景気づけにパ~ッといこうぜ!」
鉄郎「いやぁ~…そこまで言うなら!」と、帽子を被り顔を上げ笑顔で立ち上がる
(4人)「え~?」
宗吉の背中を押して逃げていく鉄郎
常子「あ~叔父さんはやっぱり叔父さんだった…」と、顔を押さえる
常子「あ~もうこうなったら私たちだけで打開策を考えましょう」
君子「そうね」
鞠子「うん、叔父さんはもう戻ってこないような気もするし…」
常子「いや、さすがにそれはないでしょう」

<しかし…いやな予感ほど的中するもので…>

朝、森田屋表の戸を君子が開けると挟んであったメモが落ちる
拾って読んで驚く君子

4人の部屋
割烹着姿で頬に手を当てている君子と寝間着姿でメモを囲む3姉妹
それを読む鞠子「小橋家の皆様へ
叔父さんはキャツラを黙らせるだけの金を作って戻ってくる
それまでは頑張って歯磨きを作って持ちこたえてくれ あばよ 鉄郎」
常子「信じられない…えっ…えっ、逃げたって事?」
君子「そのようね…」
鞠子「もう嫌!」
メモを破って捨てる常子

<常子たちはまたまた窮地に立たされたのでした>

(つづく)

鞠子の悩みは進学だというのは分かっていたけど経済的な事だったんだね
滝子にはそこまで甘えられないとう事なのか

鉄郎が常子に尊敬されて意外な展開だなあ…
と思って観てたらすぐに落とされたw

鉄郎の「どうしたもんじゃろのぉ…」に常子の「こっちのセリフです!」は
2重の意味があるよねw

さらに小橋一家や森田屋にまで迷惑をかけるのが目に見えているのに
「あばよ」と書き置いてひとり逃げ出す鉄郎
もう本当に豚の餌にでもなればいいのにw

怖い人たちにむしられそうな常子たちだけど次週予告を観たら
あの人が解決してくれそうな感じだね、あの人が



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